「お疲れ様です」

 後ろで、誰かが自動販売機に小銭を入れる音がし振り向いた。


「ああ…… お疲れ様……」


 たしか、うちのチームのアシスタンの女の子だ。


 以外にも、俺と同じ缶コーヒーを買っている。

 苦味が強くて、あまり飲む人を見かけないが、疲れを取るには最適だ。

 彼女も、朝から明日の打ち合わせ準備に追われ、疲れているのだろう……


 「ごめん…… アシスタントの子だよね? 名前、教えてもらっていいかな?」

 今なら、名前を聞いても不自然じゃないし、自分の企画チームのメンバーの名前は早く覚えたいのも事実だ。



「あっ。矢崎美羽です。企画部大勢だから、名前と顔覚えるのも大変ですよね……」


「まあな…… 取りあえず自分のチームだけは覚えないと仕事にならないからな……」


「そうですね……」

 矢崎はくったくのない笑みを向け、何か考えているようだった。


「えっと…… ガタイのいいメガネをの掛けた冗談言っているのか本気なのかが分からないおじさんが、飯沼主任。茶髪で背が低めの、すぐに口を尖らしていじけるのが、大宮君。美人だけど突然大きな声で笑いだすのが、姫川さん。姫川さんと雰囲気が似ているけど、メガネを掛けてクール―な方が、唐沢さん。背が高くて若い爽やかな王子のイメージが藤川さん…… 取りあえず、その辺ですかね?」


 俺は一瞬驚いたが、次の瞬間声を出して笑ってしまった。


「あはははっ」


 きっと、俺がチームの名前を覚えられなくて困っていると思ったのだろう。

 彼女の説明通りの人達に心当たりがあり、思わず笑ってしまったのだが、こんな風に自然に笑ったのは、久しぶりの気がする。

 今まで付き合ってきた彼女達ともこんな風に笑った事があっただろうか? 

 どちらかと言うと、整った笑顔を見せた方が、彼女達のウケが良かったからだ。

 気付けば、亜由美も彼女達の中の一人になってしまっていた。


「分かりにくいですか?」

 矢崎は不思議そうに首を傾げた。

 少し間の抜けたその姿に、なんだか安心させられた。


「いいや、凄く特徴掴んでいて笑えただけ…… サンキュー」

 俺はそう言い残して、ゴミ箱に空き缶を捨てると、オフィスへと向かった。


 なんだか面白い子だ。

 新しい企画チームに楽しくなりそうな予感がした。