定時には終わらせられなかった資料作りがやっと形になり、時計を見ると七時を指していた。

 辺りを見まわすとオフィスの中は、ほとんど人が残って居らず、課長がデスクに座りパソコンを睨んでいた。


 デスクの上のパソコンを閉じると鞄を肩に掛けた。


「矢崎!」

 課長の呼ぶ声に、胸がキュンとなるのを押さえるように小さく息を着く。


「はい」


「仕事は終わったか?」


「はい、お先に失礼します」

 頭を下げ、オフィスを出ようと歩き出したのだが……


「お前…… 小山ってやつと付き合っているって本当なのか?」

 突然の課長の言葉に、歩きかけた足が止まった……


「……」

 私は返事に困り黙ってしまった。


「お前…… 幸せなのか? 俺が言う事でも無いのかもしれないが…… あいつはやめといた方がいい……」


 どうして…… 

 突然そんな事いうのよ……  

 ずっと、我慢してきたのに……


 私の目から、涙がポタポタと落ちだした…。


 もう少しの我慢だったのに……


「どうして?」

 私は涙も拭かないまま、課長に目を向けた。


「お前が心配だから…… お前なら、もっとふさわしい男がいるだろう? それに、俺の事も最近避けているみたいだし……」

 課長が、席を立ち私の方へ近づいてきた。


「ほっといてよ…… 誰も私の事なんか見てくれないんだから…… ふさわしい男って? もう少しだったのに!」


 私は泣きながら吐き捨てると、近づいて来る課長を避けるように走ってオフィスを出た


「もう少しってなんだよ! おい! 待て!」

 課長の声が聞こえたが、急いでエレベーターに乗り込み、扉を閉じた。


 何で涙が出てしまったんだろう? 

 張りつめていた物が崩れたように、次から次へと涙が落ちてくる。


 課長は、心配して言ってくれたのに、思わず口から出てしまった。

 最低だ…… 


 気にしてくれていた嬉しい気持ちと、もっとふさわしい男と言われたショックが入り交ざる。


 課長にふさわしい女性になりたかった。


 もうす少しで、企画チームが解散になる。


 それまで、頑張ろうって思っていたのに……


 こんなに簡単に崩れてしまう自分の感情が情けない…… 

 自分がしっかりと意志をもって歩いていないからだ…… 


 課長への気持ちから逃げ、他の人とつきあって気持ちをごまかそうとしていた事に今更、気付いた。