「セ、セディっ……」

「騎士見習いのくせに、こんな簡単に男に抱き締められて、大丈夫?」

「っ……そんなことよりセディ! 怪我……」

「大丈夫だよ。これ以上のことしなければ」


クスクス笑いながらそう言って、セドリックは更に腕に力を込める。
強い抱擁に、アデルは息をのんだ。


「アデル……」


腕の中で身を竦ませるアデルの耳元で、セドリックは掠れた声でその名を呼んだ。


「いいかい? アデル。これからは王太子妃としての務めも出てくるから、騎士団の訓練はほどほどに」

「え?」

「……ほらね、まったくわかってない。アデル、君はもう王太子の婚約者なんだよ。騎士団なんて男所帯に置いとけないじゃないか」


そう言ってボヤくセドリックを、アデルはわずかに不安そうな表情で見上げた。
彼女の揺れる瞳を見ていれば、セドリックにも何が言いたいかは手に取るようにわかる。
彼はアデルに言わせる前に、開きかけた唇にそっと人差し指を当てて止めた。


「騎士になるなとは言わないよ。騎士団の任務も、君のこの髪が……また長くなる頃までは認める」

「髪……?」


戸惑いながら首を傾げるアデルに、セドリックは「そう」とニッコリと微笑む。