「アデルと踊るの、初めてだね。……今更だけど、なんかちょっと照れる」


その言葉が嘘ではないのは、セドリックがはにかんでいるから感じられる。
彼の言う『今更』な緊張が伝わってくるようで、アデルも思わず俯いた。


それでも、もともとダンスは好きだ。
他のみんなが楽し気に踊っているから、アデルの心もウキウキしてしまう。
セドリックは彼女の様子に気付き、どこか気取った様子で胸を張った。


「アデル。僕と一曲踊ってもらえますか?」


澄ました口調で、アデルにダンスを申し込んでくる。
そんな彼に、アデルは微笑みながら答えた。


「もちろん」


ドレスの裾をちょんと摘まみ、アデルはレディらしく挨拶をした。
セドリックもいつもの調子で、ふっと口角を上げる。


「今夜はパートナーチェンジなしだよ。いや……この先も、かな」


姿勢を正し背筋を伸ばしたアデルの耳元に、セドリックが低めた声で囁きかけた。
耳をくすぐる吐息とその言葉に、アデルの胸はドキッと跳ね上がる。
アデルの反応を最後まで確認して手を取ると、セドリックは気品溢れる身のこなしでリードし始めた。


セドリックのリードはとても巧みで、それでいてどこか強引だ。
最初は周りの視線を意識してぎこちなかったアデルの動きも、彼に合わせて弾むように軽やかに変わっていく。