「セディ、アデル」


近付いてくる足音と呼びかける声に気付き、二人は揃ってその方向に顔を向けた。
視線の先で、豪華なドレスを手にしたライアンが、何人もの召使いを従えて歩いてくる。


ライアンは二人の前で足を止めると、抱えていたドレスを献上するように、両手でアデルに差し出した。
「え?」と瞬きをするアデルに、ライアンは悪戯っぽく目を細め、ふふっと笑う。


「ダンスの時間だ、アデル。せっかくの婚約パーティーなんだから、せめてドレスでお相手しないか?」


アデルにそう言いながら、ライアンはセドリックが向ける視線に、片目を閉じて応える。


「セディだって。どんな姿でもいいとは言っても、ダンスはドレスを着たアデルと踊りたいだろ?」


おどけた口調で言われ、セドリックは一瞬虚を衝かれたように黙り込んでから苦笑した。
自分を見上げるアデルを窺いながら、「まあね」と小さな声で答える。
それを聞いたライアンは、得意げにパチンと指を鳴らし、従えてきた召使いたちに指示を出した。


「さあ、王太子妃のお召し替えだ! いいか? とびっきりの美女に仕立て上げろ!」


朗らかなライアンの命令を聞いた途端、召使いたちは「はいっ!」と元気な返事をして、一気にアデルを取り囲む。