優雅な足取りを一変させ、大きな歩幅で駆け寄ってくる。


「アデル、どうして……。この髪、いったい何が……!?」


先ほどのライアンと同じように、乱暴なほど強くアデルの肩を掴み、力いっぱい揺さぶってくる。
あまりの力の強さに首が前後にガクガクと揺れ、アデルは一瞬ギュッと目を閉じた。


「アデル、どうして!?」


セドリックは悲痛な声で叫ぶと、アデルの首の後ろ……いつもよりだいぶ低い位置で結ってあった髪を解いた。
解かれても、彼女の髪はいつものように豊かに広がらない。
肩にも届かない毛先がふわっと頬を掠めるだけだ。


「あ……ああ……」


短く不揃いなアデルの髪に、セドリックは大きなショックを受けたようで、虚ろな声を漏らす。
彼はアデルの短い髪に幻視するかのように、何度も彼女の髪を撫で、指で梳いた。


「んっ……くすぐったい、セディ」


アデルは顎を引いてセドリックの手から逃げた。
一歩足を引き、彼との間隔を広げる。
そして、呆然と見つめてくるセドリックの前で、胸を大きく上下させて息をした。


「セディ。……いえ、セドリック王太子殿下」


アデルは広間中に響き渡る張りのある声で呼びかけ、セドリックを見上げた。
あちこちから向けられる様々な視線を感じながら、セドリックの前で片膝をつき、こうべを垂れる。