しかし……。
突如、セドリックの前方でバチンと大きな音がした。
それと同時に、アデルが乗った馬が、両前足を高々と上げていななく。


「きゃあああっ!!」


馬に振り落とされそうになったアデルが、切り裂けるような悲鳴を上げてその首にしがみつく。
一瞬呆然としたセドリックの目の前で、馬はアデルを背に乗せたまま更にいななき、暴れ狂ったように駆け出した。


「アデル!!」


叫んだ時には、セドリックも何が起きたか察していた。
アデルの馬が、農民たちが仕掛けた罠にかかったのだろう。
寸でのところで挟み込まれるには至らなかったが、興奮した馬は制御不能状態に陥った。


「アデル!!」


セドリックは反射的に馬の尻に鞭を打った。
彼の愛馬が甲高くいななき、全速力で走り出す。


「セディ! セディ、助けてっ……!!」


前方を猛スピードで疾走する暴れ馬の背中で、アデルが涙声で叫んでいる。


「アデルっ! 落ち着いて手綱をっ……」


セドリックは怒鳴るように指示を出す。
しかし、彼の声は馬の蹄の音といななき、そしてアデルの悲鳴で掻き消されてしまう。


「アデル……!!」


セドリックは頭を低くして背を屈め、馬の首に抱きつくような姿勢で、必死にアデルを追った。