国王の吹く角笛が、低く一定した連続音に変化した。
それに伴い、周りの草むらや木々の音が微妙に騒がしくなる。
猟犬が放たれた先から、小動物や鳥たちが逃げてくる気配だ。


従者として供に出る狩猟は不慣れとは言え、勢子の役目は果たしてきたアデルにも、その気配はもちろん感じられるのだろう。
彼女は馬の速度を上げて、セドリックより一馬身先に進んだ。


一つに束ねられたプラチナブロンドの髪が、セドリックの進行方向で弾むように揺れる。
彼女が手綱を取る方向に目を遣り、セドリックは「アデル」と呼びかけた。


「アデル、道を逸れるな。あまり奥に行くと、獣取りの罠が仕掛けられているから」


この森は鹿の狩場として、国民の狩猟目的での立ち入りを禁止している。
しかし、この森に生息する野生動物が森の外の田畑を荒らすのはよくあることで、農民たちが作物を守る為に罠を仕掛けているのだ。


「わかってるわ。そのくらい」


アデルはセドリックを振り返りもせず、相変わらず素っ気ない声で返事をする。
いつまでも頑ななアデルに、セドリックもわずかに苛立った。


「アデル。いい加減にしろよ。その態度……」