「セディ、お前は西の方角から回り込め。俺は東に行く」


馬の前足を軽く浮かせて方向を変えるニールに、セドリックは短く「はい」と答えた。
ニールとライアンが森の奥に進んでいくのを見送り、出発してから一言も会話を交わさなかったアデルに、彼はチラリと視線を向ける。


「アデル、こっち」

「うん」


彼女はわずかに目を伏せたまま、セドリックの指示に従順に頷く。
しかしそれ以上の言葉は何も交わさないまま。


広場から走り出してほんの数刻で、森に国王の角笛の音が轟いた。
それを聞きながら、セドリックは並走するアデルの横顔をそっと窺い見る。


手綱を取るアデルの右手には、大きな槍が握られている。
見慣れないせいもあるが、セドリックから見ても彼女には相応しくない武器だ。


先週狩猟への供を命じた後、アデルが必死に槍の稽古をしていたことは、もちろん彼も知っている。
あれから今日まで、アデルを気遣い、訓練場に足を運ぶことを避けていたが、今朝顔を合わせた彼女はセドリックの予想以上に余所余所しかった。


あんな命令の仕方をしたから、アデルが反発しているのはわかる。
しかし、今のアデルからは、それだけではない気負いのようなものを感じる。
セドリックは硬い表情を浮かべるアデルを気にしていた。