王家の恒例行事の一つとして、狩猟が毎月行われる理由は多々ある。
中でも一番の大きな目的は、国王と騎士団の戦闘訓練としての位置付けによるものだ。


フレイア王国は中立国家だが、他国同志の争いに巻き込まれる危険性がないわけではない。
有事の際には自国を守る為に闘う必要があり、王家で行う狩猟は、人的戦闘の実地訓練を兼ねる目的があった。


特に、鹿狩りの捕獲法は巻き狩りといって、多くの勢子や猟犬を投入して行う大掛かりなもの。
狩猟の際の主君はたいてい国王、もしくはそれに準ずる青年王族男子が就く。
主君は角笛を使って猟犬や勢子の動線を指示し、獲物を追い詰めていく。
最後のとどめは勝利の勲章。
狩猟に関する一連の行為は、まさに人間同士の戦いに類するものなのだ。


フレイア城から北方にある森に着くと、中ほどの開けた広場で簡単な朝食をとった。
ライ麦パンに野菜のスープ、肉の燻製という至極簡単に口にできるものだ。
そうして王族やその従者の騎士たちが食事をしていると、先に獲物を探しに森の奥地へ進んでいた猟師から、獲物となる牡鹿発見の報告が届いた。


国王が猟犬配置の命を出すのを聞きながら、ニールやセドリックは食事を中断して馬に跨る。
セドリックの隣には、馬に乗ったアデルがピタリと並んだ。