そのまま、セドリックからプイッと顔を背ける。


「アデル?」


差し向けたまま無視された手を一瞬キュッと握ってから、セドリックはアデルの背を見つめた。
彼女は更に素っ気なく続ける。


「馬くらい一人で乗れるわ。セディ、私が手を貸す必要がなければ、あなたも馬に乗って。……ほら、ニール様やお兄様はもう城門に出発されたわ」


アデルはそれだけ言うと、自分の馬の鐙に足をかけ、軽やかな動作で馬に跨った。
それを見て、セドリックはわずかに目を細め、無言で軽く肩を上げる。
そして自分もアデルに続き、愛馬の背に跨った。


「じゃあ、行くよ。アデル」

「うん」


わずかに手綱を引いて馬の鼻先を方向転換させながら、セドリックは先を行くニールとライアンを追う。
アデルも短い返事をして、すぐに彼の隣に並走した。


ニールやセドリックの馬を先頭に、国王を始めとした王族たちが後に続く。
猟犬と係の騎士が乗った荷馬車や、勢子の馬も次々と城門をくぐっていく。


こうして、大勢の狩猟隊を従えて、王宮でも指折りのビッグイベントである鹿狩りは、まだ東の空が白まぬうちから幕を開けたのだ。