アデルは小さな声で「おはよう」とだけ返し、伏せていた目をそっと上げた。


狩猟に出る時、セドリックはいつも森に紛れる緑色の衣服に身を包む。
防御の目的もあるやや厚手のキルティング素材の上衣は、少しくすんだ緑色。
裾は膝上まであり、その下にはショースを履いている。
膝丈の長いブーツで足を包んでいるのはいつものこと。


馬に乗る際邪魔になることを考慮して、短い丈の濃緑のケープを羽織っている。
キラキラと輝くブロンドの髪は、今はターバン状に巻いたシャプロンで覆われている。
早朝だと言うのに、どこから見ても完璧な王子様だ。


他の王族や騎士、そしてアデル自身も、セドリックと大差のない格好をしているのに、彼ばかりが神々しく見えるのはどうしてだろう。
アデルはなぜだか面白くない気分で、セドリックをジトッと上目遣いに見つめた。


セドリックはアデルの視線を受けてクスッと笑ってから、彼女から愛馬の手綱を受け取った。
そして、アデルにスッと手を伸ばす。


「アデル。手を貸してあげるから、君が先に馬に乗って」


からかうようなセドリックの口調で、これ見よがしに女として扱われていることを感じ、アデルは「結構よ」と素っ気なく呟いた。