その日、騎士団の訓練時間が終わった後、アデルはライアンに頼み込み、槍の稽古をつけてもらった。
狩猟で必要なのは、アデルが普段から使い慣れている剣ではない。
アデルが右手に持つのは、剣より長く、先に三角の矢尻がついた槍になるからだ。


今までの狩猟では持つ必要がなかったから、アデルも槍に関してはほとんど初心者だ。
それでも、狩猟までの一週間で、主君の足手まといにならないよう一通りの使い方を習得しなければならない。


他の騎士たちが引き上げた訓練場で、槍の稽古を終えた時、夕日は既にとっぷり暮れていた。
通常の任務の後に不慣れな槍を振り回し、ライアンと宿舎に戻ったアデルは疲労困憊だった。


建物に入り螺旋階段を上りながら、アデルは背後に続くライアンを振り返った。
そして、彼に肩を竦めながらお礼を言った。


「ごめんね。お兄様、ありがとう」


体力の差は歴然だが、アデルと同じようにライアンも疲れているはず。
とは言えライアンの疲労はアデルの予想以上だったのか、彼は謝辞を聞いてもなんの反応もせず、どこかぼんやりしている。


「あの……お兄様?」