ライアンとは身体の正面を真逆に向けたまま、セドリックが肩をポンと叩く。


「昨夜言ったアデルの精油の件。あれ、忘れて。どうやら僕の勘違いだったみたいだ」

「……え?」


セドリックはいきなり話の内容を変えてしまい、ライアンは一瞬思考回路の転換が追いつかず口ごもる。
聞き返した間で、昨夜セドリックがそれを気にしていたことを思い出した。


「ああ……そうか?」

「うん。今日のアデルからはバラの香りはしなかったから。いつものローズマリー」


セドリックはそう言って、ふふっと小さく笑った。
ライアンは彼を振り返りながら、訝しい思いでわずかに首を傾げる。


「でも、昨夜のバラも良かったな。今度特注で作らせて、アデルにプレゼントしようか。使ってくれるかな?」


どこか楽し気に声を弾ませるセドリックに、ライアンは戸惑いながらも、「ああ」と返事をする。


「喜ぶよ。きっと」

「そう? じゃあさっそく調合させてみよう」


それだけ言っていつもの笑顔を浮かべると、セドリックは「じゃ」と短い一言を残し、広間を横切っていった。
その背を振り返って見送りながら――。


「……バラ?」


ライアンはセドリックの言葉を拾って口に出して呟き、そして難しい顔をして首を傾げた。