号令をかけていたのは、入学式の日であった女の子、副﨑美奈だった。
「気をつけ、礼」
彼女がそう言うと、クラス全員がこちらに頭を下げて着席する。
慌てて僕も頭を下げた。
生徒会長だから三年生だろうとは思っていたけれど、最初の授業で会うことになるとは。
彼女を瞥見すると、微かな笑みを浮かべてこちらを見ている。
向こうも何となく気づいているようだ。
来る前に出席簿に目を通しておくべきだった。
「ふう……」
といっても最初の授業だし、頼りがいのあるところを見せないといけない。
気を取り直し、僕は自己紹介を始める。
「これから一年間、皆さんの政治経済を担当する久田翔一郎と言います。今年からこの学校に赴任してきました。受験に向けて皆さんをサポートしていきたいと思っているので、よろしくお願いします」
緊張しつつも何とか自己紹介を終え、出席確認に移る。
途中でどう読むか分からない名前もあり、読み方を間違えてクラスに笑いが起こる。
そのおかげでクラス内の雰囲気も何となく柔らかくなり、初めてにしてはだが、その後もスムーズに授業を展開することができた。