暗くなる気持ちを抑えながら
通学路を歩いていく。


「 〜〜〜♪♪ 」


ふいに携帯電話が鳴り出した。

誰から来たのか確認して、電話に出る。


「 梓?どうした? 」
 

「 どうしたじゃないよ!お兄ちゃん遅すぎ!私もう先に行ってるからね! 」


「 おう、先に行ってな 」
 

電話がぷつんと切れる。
梓の声は電話越しでもうるさい。
 
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 。

一人になるといつも考え事をしてしまう。
だが、この時間は結構好きかもしれない。
風が吹く度に、桜の花びらが舞っている。
春の風は気持ちがいい。
まるで、心のもやもやを吹き飛ばしてくれるようだ。

だが、そんな時間もすぐに終わる。
目の前には高校と、
俺を避けておかしな目で見るやつら。

キレたらおしまいだ。
何も考えないように教室まで歩く。


「なぁ聞いた?あいつ、南中の血まみれ乱闘事件で暴力振るってた本人なんだって」


「あー知ってる知ってる!友達から聞いたけど相当やばい事件なんだって。」


「うっわ怖すぎ…」


くだらない。どいつもこいつも。

俺を警戒して避けたり、
ひそひそ話をしてチラチラ俺を見ているやつらの真ん中を突っ切って歩いていると、いつも思うことがある。
俺はなんて馬鹿なんだろう、と。
 
そもそも今俺が孤立しているのは俺のせいだ。

梓にも余計な無理をさせている。
俺の妹ってだけで妹は周りから避けられている。

いつも笑って心配かけまいとしているけど、俺は梓がどれだけ無理をしているのか、知っている。
だから、梓の笑顔を見る度少しだけ辛くなる。

色んなことを考えていると
俺のクラス、3年A組の前に来た。

ドアを開けると
さっきまで騒がしかった教室が途端に静かになる。
教室なんか行きたくもないが仕方ない。
 
心の中で大きなため息をついて自分の机に座る。
タイミング良く担任がホームルームを始めた。

ふと隣の窓側の席を見る。
誰もいない。

佐伯なんとかという女の席で、
4月半ばになったというのに
1度しか学校に来ていなかった。

クラスの女子の中で1番大人しい
地味な女と言うイメージがある。

誰とも話さず休み時間はずっと窓の外を
見ていたから何となく印象に残っている。
 
まぁ、そんな事どうでもいい。
興味が無い。

授業を受けていると
またもやひそひそ声が聞こえる。
 

「なんかさ、桐生大人しくね?毎日のように暴力沙汰だったのに最近は何にもないよな」


「何でだろうなー、もう懲りたのかな」


「まぁ何も無い方がこっちにとっちゃ好都合だよな、喧嘩のあとマジで怖いし。」


「おい、あんま喋んなよ、聞こえるって」


梓に暴力は絶対ダメって言われてるからやらないだけだ。
それにまた殴ったら梓に危険が及ぶかもしれない。


少し経つと授業が終わった。


「はぁ…」


そそくさと教室を出るやつらを横目で見ながらため息をついた。