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バーーーン!!!


「お父様!!!!」

「ひい!」


扉を空け、そこにいるであろうでっぷりに大きく声をかける。

…何やら情けない声が返ってきたが、でっぷりめ、失礼だぞ。


「お父様!!ちょっとお話がありますの」

「な、なんじゃ、ソレイユ…!
さ、先ほどの結婚のことか!?アレについては悪かった!もう結婚なんて言わぬ!
言わぬから父を許し…」

「結婚!!!よろしいでしょう!!!」


「……へ!?」


但し、いくつか条件がありますの。

ニコリと笑う私。

のちにその場にいたものは語る。
美しい花には刺があるとはこの事をいうのであるのだろう、と。


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「…ソレイユお主…条件とはこんな…勇者候補を見に行きたいなど、これでよいのか?」


「シッ!お黙りでっぷり!今私は探し物に必死ですの!!」

「で、でっぷり…!?でっぷり…」

「王ッ…!気を確かに…!」


横で何がほざいているでっぷりを押さえ込み、勇者候補と呼ばれる我が国に置かれる勇者の剣を鞘から抜こうと挑戦する皆が並ぶ行列を見つめる。

先程出会ったアインツの服装はどう見てもこの城のものではない。

なのに扉の向こうに用があった。

扉の向こうは王室と呼ばれる先ほどの場所か、この剣が置かれてる場所とでしか分かれていない。

ということは!必然的にアインツがいるのはこの場所のみなのである!イコール!この行列に必ず並んでいる!!と賢い私は考えついた。


しかしこの列に並んでいるとは決定として、いかにアインツに抜かせるか、である。


結婚とまでは行かないが、勇者という立場になってくれさえすればグッと近づく距離は増す。

ぐふふ、卑怯ですって?なんとでもおっしゃい!女は恋に対しての欲望は忠実なのだ。



「…姫のお陰ですね」


「え?」


「いえ、皆一段と気合がはいっておりますので…」


この場所担当の兵士がふと私に声をかける。

その言葉にふと皆を見ると確かにチラチラとこちらを見てはキリッと顔を決めたり、鞘から抜く際にちょっとかっこつけたりなど忙しそうである。


私が美しいのは分かっている。


そう、私は美しい!普通であればこのように皆が皆そうなっていた。


しかし、アインツは違う。

私の容姿を見てもまっすぐあの海のような綺麗な瞳で私にバカと言ったのだ!


キュンっ。


思わず思い出して胸を抑える。


はぁ…私は恋に生きる奴隷となるのだ…!
胸のときめきは止まらない。


「ハッ!」


違う違う、ときめいてる場合ではない!
アインツを列から探し出さなければ!!


カッ!と目を開いて並ぶ皆をじっくり見つめる。

一人一人というよりも、とりあえず白の服を来た人物が目に入り次第顔を確認するという作業を繰り返し続けてみる。


…んん、見当たらない…!


後ろの方も目で確認出来る範囲で見つめるが私のときめきアインツレーダー(命名)は反応しない。


まだ列は続いてるみたいであるし、先程あったばかりだ。
見える範囲にはいないのだな、と少し気分が下がって下を向く。



「姫?気分が優れませんか?」


「…いえ…そうではなく…。これもまた神からの試練なのだと思いました…。」


「姫…!」



じぃんと感動したように声を震わせる兵士。

(未だ勇者が現れないこの状況を嘆く姫…!ああ、なんて美しい!そしてなんて慈悲深いのだろうか…!)

…兵士よ、おたくの姫はそんなことは思っていないぞ。

しかし、そんなことは誰もツッコむことはなく、ここに一つの勘違いは生まれる。


そして当の勘違いを産んだ姫はと言うと…


ーーーーピキーン!


んん!?
そして突如私に走ったアインツレーダー。
反応がする方向へ迷わず目を向けると、目に移るその光景に思わず手で口を抑える。




ア、ア、アインツーーーッ!!




彼は居た。そこに立って居た!
やはり!私の考えはあっていたのだ!彼はこの列に並んで居た!

はぁあ…!米粒ほどの大きさでしかまだ確認できていないが、くるりと跳ねる黒い髪!少し汚れたその服装!アインツで間違いはない。とても可愛いぞ、アインツ!


「ひ、姫?」

おっといけない、興奮しすぎて息が荒くなっていたようだ。
兵士に声をかけられなんでもないと声を返す。

(何かを見て目を輝かせていたが…ん?あの男か?はっ!まさか!もしかすると勇者か?!姫は何かを感じ取って…!)

兵士よ、違うぞ。
また生まれた勘違いは誰もつっこむことはない。


そして一方、姫…


ーーーーこうなればあとは彼がさくっと鞘を抜くだけだ。


しかし、何度も見てきたが力技で開かないことは確かであろう。
列に並んで居た屈強な男が顔を真っ赤にしながら抜こうと必死にやっていた姿を思い出す。

それでも未だに抜けない鞘。
…何が基準であるのか、まったくもって検討がつかない。

勇者しか抜けない、とはその…いわゆる剣に認めてもらわないといけない?ということか。

であれば、あの剣は少なからずとも”意思”をもっているのだろう。

ふむ…。

考える私。ええい!何かあるはずだ!
あの剣が意思をもっているとすれば…!

考え込みながら、ちらりと目線を逸らすと
柱に埋め込まれたガラスに移りこんだ自分と目があった。

あら…私としたことが肝心なことを忘れていたとは…。


ふふっ、と少し微笑み背筋を伸ばす。


アインツの場所を確認する。

まだ、抜く順番には程遠い。


頭で思いついた案はうまくいくかはわからない。…いや、うまくいくかではない、絶対に成功させてみせるのだ!

メラメラと燃える私の心に比例するように列が進む速度は速くなっていった。