ーーアルタ王国、王室。

「うむ…未だ現状誰も剣が抜けぬとは…。
なんとも苦しい状況よ…!一体いつ勇者は現れるのか!」

「王…嘆くのはまだ早ようございます…!
必ず、必ず勇者が現れます…!

ただ…やはり各国の魔物の出現率は増すばかり…一刻を争うでしょう…」


はぁとため息をつくのは王とそのお付の者。

でっぷりとしたお腹を押さえ、王座につく王の目は憂いを帯びている。

ーーここアルタ王国には数ヶ月前王が宣言した声を聞き、各国から数多の人が我こそは勇者であると、その剣を鞘から引き抜こうとこの地にやってくるが未だその剣は抜かれることはなく…。


現状、時間だけが刻々と無常にも過ぎていた。


「ぐぬぬ、今日の参加者はどうじゃ?」

「いえ、確かまだ人が並んでいるとのこと。本日の中に勇者がでれば…よいのですが…」

「ええーい!もうこの際だれでもよい!とりあえず早く抜いて、早く竜を倒して、早くわしの娘と結婚しろ!!」

「え!」


今、なんて仰ったこの王。とお付は呟く。



「孫!孫が早うみたいのじゃ!」

「お、王!?」

「もうここまでくれば竜はよい!孫じゃ!わしは孫を早う抱きたい!」

「あっ、王よ…あの」

「それなのに我が娘はなんということか!顔だけはいっちょ前にいいのに!あの!性格よ!」

「王、あの」

「流石わしのスィートハニーとの子だけはある!素敵!だがの!何故あのような子になってしまったのか…!」

「お、王…!」

「勇者と結婚!そうすれば娘も幸せ!そしてわしも幸せ!」

「ひっ王!!」



ーーーコツン、コツン、コツン。



「もう!なんじゃ、馬鹿者!
さっきからわしを王、王、王と!わしが王なのは知っておる!何がいいたいのだ!」



「ーーそうですわねぇ、お父様。
何が言いたいかって言われますと色々あるのですけど…とりあえず…」




ーーーコツン。



「ーー何勝手に結婚させようとしてるんじゃこのボケェエエエエ!!!!!」
「アイテテテテテテ!!!!」


現れたのはシルクのドレスを身にまとった美しき女性。

そして素早い動きで王との距離を近づけ、ぐりぐりとそのこめかみを拳で挟み込む。

怒りで顔が歪んでいるがそれさえ美しいと思う美貌の持ち主ーーー名はソレイユ。


このアルタ王国の王一人娘…姫である。


「だ!れ!が!結婚?馬鹿なの?デブなの?それは知ってるけど誰が幸せだって?」

「ひっ姫!王の顔がとても可哀想なことに…!」

「ああん?!」

「申し訳ありませんっ!!」


姫の睨みに謝るお付。

なぜ自分が謝っているかわかっていない、条件反射と言われるものである

メンチをお付に切るのは姫だ。

大変姫だとは思わない口調であるが、これは姫である。…もう一度言う、姫である。


「ひっ、だって!姫!お主もいい歳だろう!
わし早く孫が見たい!抱きたい!それなのに…イテテ!」

「だからって勇者と結婚?美しい!この私が!どこぞの誰かと結婚?片腹痛いわ!!」

「あう!!!」


ペイ!と椅子から投げられる王。

そして変わりに優雅に座る姫。

ため息を付きながらすらりと伸びた足をゆっくりと組む。
王を投げた姿含めそこに到るまで全て絵になる、なんて美しいことか。

そうこの姫。ご自身で言われてるいるがとても美しい。
もう100人が100人、首を縦に振るであろうくらい美しい。

しかし、性格に少し難がある。

自分の父である王にもこの態度。

そして自身で美貌を理解してるからこそ、結婚にはうるさい。

他国の王子が姫に結婚したい!と告げても、姫はその場でポイッと話をなかったことにする。

この姫に泣かされた王子は数しれず。


ああ、なんて恐ろしい。


「うう…ひどい…お父上泣いちゃう…」

「うざい」

「ううう!」

「王…!」


よよよ、と泣き崩れる王に姫は舌打ちする。

…恐ろし過ぎる…!と震えるお付。
しかしその姿さえ美しいのだ、ちょっと自分も舌打ちされたいと思うお付。


「って姫!?どこにいかれるのですか!」


ガタリと立ち上がり歩き出す姫。
慌ててお付は声をかけるとコツン、とヒールを鳴らしながら姫は振り向いた。


「外よ外!散歩にでもいくわ!そこのでっぷりは放っておきなさい!」

「あ、姫!しかし今日は勇者候補達が出入りしてますので…」

「分かっていますわ!」

「あ、姫ーー!!!」


出ていく姫、まだ泣いてる王。

お付はふと思った。


転職したい、と。