さされた指が自分に伸びていることに慄く。

怖い。
怖い、助けて。

視線が痛い。視線が苦しい。囁き声が呼吸を圧迫する。

集まってきた生徒達に囲まれた蝶は、身動き取れずに身を竦めた。

恥ずかしさと恐怖で頬から血の気が引いたのが自分でも分かった。泣きたくもないのに視界が滲んで、下を向いて黙り込んでいると、誰かの手が腕を掴んだ。

「やっ……」
振りほどこうとすると、耳元に吐息がかかった。

「黙って」

その声に反射的に振り向くと、至近距離に彼女の真剣な顔があった。

思わず身を引くが、細い手は案外にも力があって、硬直していた蝶を引っ張るように走り出した。

雨の中なのに走っていれば、傘が揺れて体中が濡れるのは確実だ。それなのに、あの場から連れ出してくれた目の前の背中を見て、今度は違う意味で泣きたくなってしまった。