「あ、ありがとうございます。でも、そうすると貴女の傘が」

由里が小さな声で言い添える。珍しく、少し緊張しているらしかった。

「心配しないで。私、折りたたみ傘も持っているの」

そう言い、鞄から傘を覗かせたので、私達も安心してそれを受け取った。

「見ず知らずの私達に、ありがとうございます。必ず返すので、いつこの図書館に来るか教えて頂けませんか」

勇気を出して口を開くと、彼女が唇に人差し指を当てて、囁いた。

「毎週金曜日」

「……え」

「来てくれると、嬉しいな」

はにかんだ彼女に、私は悟った。

これは、傘の催促ではなく、話をしたいと申し入れられているのだと。

分かりました、と返して私は頭を下げた。慌てて由里も頭を下げるのを見て、踵を返す。