「天気予報には晴れってあったのに…もう、傘忘れてきちゃったよ」

「私も」

相槌を打つと、二人でため息をついた。

「走るっきゃないね」
由里がそう言い、鞄を頭の上に掲げた時だった。

艶やかな黒髪が、視界の横を染めたのは。

「良かったらこの傘、使う?」

「え?」

その言葉と共に差し出されたのは、落ち着いた紺色にクリーム色のラインが一本入った、大人の女性が好みそうな傘だった。

顔を上げると、端正な横顔がこちらを向いて笑う。

切りそろえられた前髪が、形の良い眉の上で揺れていて、二重の瞳が印象的だった。

(…綺麗な人)

そう形容したくなる容姿をした女子高校生だった。近所には見かけない制服だが、中学生というには大人びていたのでそう思っただけなのだが。