それでも、やはり高月は承知の上なのだろう。
その上で、覚悟を問うている。

蝶は、あの雨の日の同級生達の目を思い出した。

どこまでも無感情に、人を傷つけられる目だった。あるいは、歓声のもとで。

その中に出ると思うと、身がすくむ。

頭が真っ白になって、立ち尽くすことさえ罪に思える。まるで、世界の全てを敵に回したような。

そのきっかけとなった決定的な、あの始業式からあまり日も経っていなかったあの日は。

もう、あんな思いは繰り返したくない。

関節の白くなるほど握りしめていた携帯が、震えた。

恐る恐る目をやった蝶は、息を呑む。

『守るから』

しばしどういう意図か考え込んで、蝶は頭を悩ませた。

(高月はいい奴だからなぁ)

きっと、特別な意図などないのだ。

それが少し残念なような、ほっとしたような、複雑な気持ちにさせられた。

慣れた手つきで素早くキーをタップして、電話をかける。

何回かのコール音の後、それは繋がった。