ドアを開いて、ふと振り向いてみたのは、本当にただの思いつきで、期待をしていたわけでも何でもなかった。

それなのに。

「………っ…」
同じようにその一瞬、振り返った高月と目が合う。

少し口角を上げてひらひらと手を振る高月は、なるほど確かに格好良くて、悔しいというのも変だけれどそんなことを思った。

その日の夜だった。

蝶が、微動だにせず携帯の液晶画面を見つめ始めてから十分以上は経った。

「………どうしよう…」

柔らかなタオルケットに頭を埋めるが、自分をすっかり救うものなどどこにもないことは承知していた。

たったの一行が、蝶を揺らす。

『やっぱり、学校、来いよ』

手早く打ったと見せて考えたのであろうその一文に目を凝らした。

(行けないよ)

簡単に踏み出せる一歩のはずがない。