納得してはいないようだったが、取り敢えず静かになった由里が数学の問題集を解き進めるのを見て、少し落胆する。

(その問題、私はそんなにすらすら解けなかったな)

元々、集中するまでが長いだけで、由里は頭の出来はいいのだ。

シャープペンシルを片手に動きを止めて悩む蝶を、高月が見とがめた。

「どしたの。そこ?」
「あ、うん。解説見ても分からなくて」
「そこは、まずこの公式で…」
丁寧に説明してくれる高月の意外な一面を見た気がして目を丸くする。

シャンプーの匂いが鼻腔をくすぐり、照れたような気持ちになった。

「分かりやすい」
驚いてそう口に出すと、高月は自慢げに言った。

「だろ」

その顔が無邪気で、少し笑ってしまう。

そのやり取りを横目で見ていた由里が、何か言いたげな顔をしていたが、蝶は気づかなかった。