〔いえ。私は今、探偵事務所にお世話になっていまして。10年前、私が起こしてしまったひき逃げ事故の関係者探しをしています。〕

ガタンッ

龍が席を立つ。

私は咳払いをひとつして龍を座らせた。

龍はゆっくりと席についた。

『改めて、黒川弥生と申します。』

私は席を立ちお辞儀をする。

〔今は何について調査されてるのですか。〕

深呼吸をして言った。

『10年前のひき逃げ事故の調査です。あなたが起こしたとされている。』

私は隠さず言った。

〔ほお。私とは敵になるのですね。〕

『どうしてですか。あなたが警察に自首してくれたら終わる事ですよね。』

〔自首なんてしないさ。10年も捕まらずに逃げられたんだ。死ぬまで捕まらないよ。私の目的は君を消す事さ。〕

龍が息を吸い込む。

『そうですか。ですが、私を消した所であなたは終わりですよ。』

久保はニヤリとした。

〔では、こうしましょう。明日の午後2時に事故があった近くの廃工場で決着をつけるというのは。〕

{おかしいですよ。}

耐えきれなくなった龍が言った。

〔君は誰かな。〕

今気づいたかのような口調で久保は龍に問う。

{10年前、お前に引かれそうになった男だよ。弥生さんの彼氏に助けられましたが…。}

〔知ってるよ。名木野龍くん。〕

龍は言葉に詰まった。

〔舐めるなよ。それ位余裕に調べられるんですよ。〕

『わかりました。では、明日。』

{弥生さん!}

〔では明日。〕

久保が立ち去り私と龍の間に沈黙が流れる。

私は帰ろうと席を立つ。

{…明日、行くんですか…。}

龍が帰ろうとする私に声をかける。

『行くよ。やっと復讐できるんだから。
りっくんを奪ったあの男にね。ワクワクするよ。』

{え…。}

『あなただって復讐したかったんでしょ。』

{それは…。}

『さようなら。』

{待って!}

私はそのはから動かず続きを待った。

{行きます…僕も行きます!}

『死ぬかもよ?』

返事がこない。

{理由を聞かなくては。なぜあのような事をしたのか。}

『1時半に私の家に来て。』

{…!はい…。}

私は龍に微笑んだ。筋肉が引きつったけど。