国語教師の狼谷(かみや)という男を

ひと言で表すならば、


――ズバリ〝地味〟だ。


「それでは、今日は18ページから……」


ひとり言のようにボソボソ話すため、授業がいつスタートしたのか毎回曖昧すぎる。


長身で、やや猫背気味。

モッサリした無造作ヘア。

目にかかるくらい前髪が長い。

無駄に大きな黒ブチ眼鏡をかけている。


「先生、そこは前回やりました」


教卓の前の席に座る、倉田千夏(くらた ちなつ)から指摘を受ける。


千夏は数少ない勤勉な生徒のうちの一人だ。

ショートボブで赤ブチ眼鏡をかけている。


「えっ、そうでした?……すみません」


口調は敬語で一人称は〝私〟。

とてもとても腰が低い。


パラパラと、なにかをめくっている。

手帳だ。

そこに書かれている前回までの授業内容メモを、再確認している模様。