『誰にも言うなよ?』



雅人もレオも信頼できるやつだ。

チクったりしないだろう。


と、なると。


どこからバレたのか検討がつかない。


「君のクラスの、ほら。銀髪の男の子」


――?


銀髪って……。

レオのこと?


「彼に聞いたんだよ。君が無届けでアルバイトしてるって」

「そんな……」


どういうつもり?

なんでレオが会長に告げ口なんてするの?


もしかして……。

わたしと狼谷を引き離すため……?


「危ない仕事なんだって?」


(え……?)


「それじゃあ学校は許可を出せない。新聞配達とか、そういう仕事を選び直してくれるかい?」

「……危なくなんて、ないです」


小さな仕事から大きな仕事まであって、中には危険の伴うこともあるかもしれない。

だけど、狼谷がわたしに危ないことさせるとは思えない。


現に今はただの清掃員だ。


それになにより、アイツの傍にいる以上の安心なんてない。


「ちゃんとした場所です」

「認めるんだね。無届けで働いてることは」

「……!」


まさか。

確信はなかった……?


今のは誘導尋問?


「そんな生徒に模擬店は任せられないかな」



会長は口調こそ優しいが、言っていることは厳しかった。

いや、当たり前のことを言われただけだ。


悪いのは、わたし。

それでも腑に落ちないのは……。


「レオは、わたしを裏切りません」

「!」


気のせいだろうか。

ほんの一瞬、会長の笑顔が崩れたように見えたのは……。


「いくらわたしがあの場所で働くことをいいように思っていなかったとしても。告げ口なんて姑息なことはしません」


狼谷先生にわたしを近づけたくないなら、とっくにわたしを裏切ってるよね。


出逢いこそ最悪で。


言動からいかにも危ないやつだけどさ。


わたしは、何度も救われてきた。


レオの笑顔に。


レオの優しさに。


「でもね、木乃さん……」

「LHRで話し合いの進行をサポートしてくれたのはレオです。わたしは彼が他人の足を引っ張るようなことするとは思えません」

「……それじゃあ、僕が嘘をついていると言いたいのかい?」

「はい。そう思っています」


どうして会長が嘘をつくのかは、わからない。会長が嘘つきだとも思いたくない。


それでもわたしはレオのことを疑いたくない。


会長は、笑顔を崩さない。

わたしに疑われているのに、こんなの、おかしい。


さっきまで天使に見えた会長が、今は怖い……。


「ハハッ」と笑うと会長が眼鏡を外した。


こんな状況で笑うなんて気味が悪い。


「……君、想像していたのと全然違うね」

「え?」

「てっきりなんでも言うこときく子だと思っていたんだけどな」




#20 信頼



.*




佐々木会長は、


「君がこんなに扱いにくそうな子だったとは。想定外だよ、木乃素子」


天使の仮面をかぶった、悪魔だった――。










生徒会室をあとにしたわたしは、教室に向かった。


「お待たせ。遅くなってごめんね」

「それはいいんだけど。話し合い長かったんだな?」

「モトコー。待ちくたびれたよ」


いつも通りの雅人とレオを見て、ホッとする。


ついさっきまで

生徒会室でピリピリした空気が流れた。

いつもと様子の違う会長に、圧倒された。


そんなときやってきたのは


……倉田千夏だった。


千夏は唯一の一年生の生徒会メンバーで、書記である。


役員の千夏もいることだし是非うちのクラスに安心して模擬店を任せてもらいたいものだが……。


生徒会長を「嘘つき」呼ばわりしたわたしの味方を、あの腹黒会長様がしてくれるとは思えない。


せっかくだけどクラスのみんなには模擬店以外の案を再度練ってもらうしかなさそうだ。


あんなにモチベーション上がっていたのに『ごめん模擬店無理だった』なんて伝えにくいなぁ。


困った……本当に、困った。



「……なにかあったのか?」


心配そうな表情を浮かべる雅人。

やば、わたし顔にでちゃってたのか。


雅人は怪我で大変なのに余計な心配かけられない。

それにこれは、うちのクラスの問題だ。


「帰ろうよー」


雅人はレオの車で帰るそうで(この頃は雅人の家に入り浸っているみたい)、わたしも一緒に乗せてもらっているのだが……。


「ねえ、レオ」

「ん?」

「……ちょっと2人になれないかな」


会長とのこと、レオには伝えておこうかな。


「え、なに。モトコ。ついにボクに乗り換える日がきたの?」

「……へ?」

「どこで2人きりになる? 保健室?」


……!!?


「いや、ちがうくて」

「うん。まぁそうだよね。モトコがボクを選ぶなんてことは……ないよね」


そんなあからさまにへこまないでくれ。


「でも、ボクと2人になるなんてキケンだよ? 押し倒しちゃうよ?」

「……やっぱり、もういいよ」

「どうして3人じゃダメなの?」



「ダメってわけじゃ……ないけど、」

「俺聞かないほうがいいなら先に一人で帰るよ。レオが、ちゃんと素子のこと送れるなら」


どうしよう。

心配かけたくないけど、雅人にだけ話さないのも、なんか違う気がしてきた。


「や、やっぱり2人に聞いてほしい……!」


すると、レオも雅人も優しく笑った。


「オッケー。じゃあ車の中で、ね?」

「いくらでも聞いてやるよ」




――5分後の車内では火花が散っていた。


「ふぅん。ボクがモトコをハメようとしたことにされかけたんだ? すごいムカつくね」


ムカつく、なんて言いながらも満面の笑みだがそれが逆に怖いレオ。


「なんでも言うこと聞きそうだと? 誰に向かってモノ言ってんだあの野郎」


真顔でキレていて怖すぎる、雅人。

目が据わっている……。


2人とも、会長に怒り心頭の様子だ。


「ヤっちゃおうよ」

「シメるか」


雅人とレオの意見が珍しく合致している……!


「ぼ、暴力反対!!」


相手はどんなに腹黒でも生徒会長だ。


暴力なんてふるおうものなら、その権力で2人にどんな処罰をくだすかわからない。


……レオに関しては、

なにかされたら倍返ししそうだけど。