『誰にも言うなよ?』



雅人とすずかちゃん……

すれ違っているように見える。


雅人は、すずかちゃんのこと、想ってて。


だけど、それが上手く伝わりきれてないというか。


すずかちゃんは、雅人にまだまだ甘えたいけど、素直になれないのだとしたら……。


「わたしが呼んでくる!」

「……素子が?」

「うん」


立ち上がり、リビングから出ようとして気づく。


「……すずかちゃんの部屋ってどこ?」



結局、雅人と一緒にすずかちゃんの部屋の前にやってきた。


レオはリビングに残してきた。


「すずかちゃんの話、聞こう」

「ああ」


ドアをノックする。


「……なに」


中から返事が聞こえてきた。


「俺。と、素子」

「…………」

「入っていいか?」

「…………」

「す、すずかちゃん! アイス持ってきたよ!」

「……どうぞ」


すずかちゃんからのYESの返事に、雅人に向かってピースすると

「アイスにつられるとは。さすがすずか」

雅人が、くしゃっと笑った。



「……学校で、なにがあった?」


雅人のストレートすぎる質問に、すずかちゃんは口を開かない。


ただ、黙って棒つきのアイスを舐めているだけだ。


「すずかちゃんが話さないなら、わたしの話を聞いてもらおうかな」


わたしがそう切り出すと、すずかちゃんの目線がアイスからわたしに移った。


透き通るようなキレイな瞳をした女の子。


守りたい、と素直に思ってしまう魅力がある。


「……わたし、イジメられてたの」




#14 拒絶しないで






わたしの告白に、すずかちゃんが目を見開く。


「ビックリした?」

「……うん。そんなタイプに見えないから」

「え?」

「やられたら倍返ししそう」


わたしは半沢◯樹か。


「気持ち的には、そのくらいやってやりたいけど。いざ、自分の身に予期せぬことがふりかかると……なんにもできなくなった」


一番こたえたのは


狼谷との相合傘が黒板に書かれていたときだ。


あんなくだらないラクガキすぐに消せばよかったのに、身体が動かなくなった。


周りが、敵だったり

無関心でいられるのって


想像していたより、ずっと


……孤独だった。



「言いがかりで持ち物を隠された。ノートはビリビリに破られた。……ほんと、人生最悪の気分だったけど、ある人が助けてくれた」


【ちょっと待ってろ】


どこかへと消えてったアイツは


【ほらよ】


日本史に必要なもの、全部揃えてくれて。


【借りた】


【これで問題なく出られるだろ】


【それじゃ、また放課後な。モト公】


はぁ。

どうしてこんなに鮮明に覚えてるかなぁ。


「もしかしてお兄ちゃんが?」

「……うん。テキストとか貸してくれた」

「へぇ」

「あのとき、世の中捨てたものじゃないって思ったよ」

「…………」

「だ、だから。すずかちゃんも。その……青春を楽しんでね?」



「…………」


真顔で無反応なすずかちゃん。


わたし、完全にハズしたかな!?


「そうだね。お姉さんみたいになろうかな」

「……っ!」

「男はべらして。手下つけるのも面白いかも」

「!?」


手下……って、


レオがおかしなこと言ったせいだな!?


わたしは男をはべらせているわけではないよ!?


「嘘だよ。焦りすぎ」


おそるべし美少女……。


「あとは、兄妹水入らずで、話しなよ……!」

「え……」

「すずかちゃんは、素直になること。雅人は、優しく話を聞いてあげること!」


そう告げると、すずかちゃんの部屋から出てリビングへと向かった。




 ◇


「ふーん。あれがお兄ちゃんのタイプか」


素子が出ていったあと、すずかがつぶやく。


「悪いかよ」

「彼女って嘘だったんだね」

「それは……色々あって。そういうフリしてた」

「ビックリした」

「?」

「あのひと、イジメられてたこと私にあっさり告白してきたから」

「…………」

「そういうことってさ。人に知られたくないよね」

「そういうもんか?」

「そうだよっ……!」


ムキになるすずかを見て雅人は


“ああ、こいつは俺に守られたかったわけではなくて、イジメられていたことを知られたくなかったのだ”と思った。



「すずかのこと、甘えん坊のガキだと思ってたんだけどなぁ」

「は?」

「無理、させてたんだな」

「別に私は……」

「これからはSOS出せよ。たった一人の兄貴なんだし」

「…………」

「父さんと母さん帰ってくるまでは俺のこと親代わりにして甘えてもいーよ」

「それじゃあプレミアムアイスバー買ってきて」

「アイスは一日ひとつだ」

「ケチ」

「明日食いに行くか。一緒に」

「……うん」