『誰にも言うなよ?』



「それってさぁ。特別な感情持たれないようにじゃない?」


(……え?)


「仕事で動いただけなのに勘違いされたら面倒だから知らんぷりしておいたのかもねぇ」

「おい、レオ……」

「カミヤは青山くんとモトコがうまくいけばいいと思ってるんだよね? 可哀想なモトコ。モトコばかりカミヤのことが好きなんだね?」 


レオの話は、辻褄が合う。


わたしはどこかで先生から“かまわれすぎてる”ことで“特別な生徒”になれた気がしていた。


それは、けっして恋愛感情ではないけれど。


それでもわたしは先生に気にかけてもらえていることが嬉しかった。


だけど、違ったんだ。


“仕事”だから優しくしてくれた。


“目的”の延長線上に、たまたま、わたしがいただけなんだ。



【心配しなくてもお前は俺が守ってやるから】


あの台詞に


特別な感情なんて、


込められていなかったんだ――。



「……トイレ、借りるね」


いてもたってもいられなくなり

雅人とレオの前から逃げるように去った。






#13 俺のとこにおいで



.*


素子の出ていったリビングが一旦静まり返ったあと、口を開いたのは雅人だった。


「なんであんなこと言った?」

「なにがー?」

「とぼけるなよ。思ってもないこと言いやがって」


すると、レオの笑顔が崩れた。


「だってさぁ。ハンデ、ありすぎなんだよ」

「あ?」

「カミヤに勝つにはズルく戦わなきゃ。ほんとは青山くんだってわかってるんでしょ」

「……だからって素子を傷つけてまで幸せになりたいか? 今にも泣きそうな顔して出てったろ」

「いいんだよ、それで」

「なんだと?」


雅人の肩に、ポンと手を置くと

耳元でそっと囁くレオ。


「ボクはあの子を傷つけたとしても、この手で幸せにしてあげられるからね」

「……!」

「賢く生きようよ、青山くん。傷心中の女の子ほど落としやすいものはないよ。今ならモトコはボクたちのこと好きになってくれるんじゃない? これはチャンスだ」

「ふざけんなっ……」



「あー、待ってよ。ここでボクを殴らないで?」


つかみかかる雅人に、ニッコリ微笑むレオ。 


「せっかく仲良くなれたのに喧嘩したら、それこそモトコが悲しむよ」

「……アイツが素子にかまってるのが仕事なんてほんとに思ってるわけじゃないよな?」

「思わないね。カミヤはモトコのこと気に入ってるから放っておけないのさ」

「だったら、」

「だったらモトコに教えてあげろって言うの?『狼谷もまんざらじゃないよ』って。敵に塩を送るの?……はは。本当にヌルいね、キミ。ボクにはそんなことできない。好きだから」

「…………」

「あれぇ。もしかして、青山くんはモトコのことそんなに好きじゃないとか?」

「黙れ」


レオの胸ぐらから手を離す、雅人。


「……好きで好きで、仕方ないんだよ」

「そうだよね。わかるよ。ボクもおんなじ気持ちだから」

「一緒にするな」


睨みつける、雅人。

レオは目を細め笑った。


「青山くんだってさぁ。2人の距離が縮んじゃうって思ったからさっきのこと教えてあげるの迷ってたんだよね?」

「!!」



「ボクはそんな青山くんが好きだよ。恋愛するのに優等生になる必要なんてないんだ。幸せを願って身を引くくらいなら自分が幸せにしてあげればいいもんね」

「それが正論かどうか俺にはわかんねーわ」


複雑そうな表情を浮かべる雅人。


「もし、ボクたちが少し邪魔したくらいで壊れてしまうな関係なら。最初から結ばれない運命だったんだよ」

「……なあ」

「なんだい?」

「狼谷は“ひと仕事”終えたあと、どうすると思う?」


ソファにかけ、足を組むと

顎に手をあてて考えたあと答えをだすレオ。


「“消える”」

「…………」

「だから、モトコと一線おいてるんじゃない? いなくなったあとモトコが悲しまないように。自分に依存させすぎないように。それで青山くんをすすめてみたりボクに任せてみたりしてそうだよねぇ」

「だけどアイツ心の底じゃ素子のこと、独占したそうにみえる。……俺の前で、素子に守るとかほざきやがった。あんなの期待させてるようなもんだ」


雅人は、狼谷の素子に対する中途半端な態度が気に食わなかった。


「天下の黒豹も、人間だったんだねぇ」

「……は?」

「あの子が大切すぎて傍に置けない、なんてさ」



 *



トイレから出てリビングに戻ると、雅人とレオがソファにかけていた。


(……なんか二人、急に仲良くなった?)


「お帰り、モトコ。プレゼントだよ」


レオから紙袋を手渡される。


「え、なに?」

「なんでしょうか」

「……わかんないけど。プレゼントなんてもらえないよ」

「誕生日、いつ?」

「12月」

「じゃあちょっとはやい誕生日プレゼントってことで」


はやすぎるだろうが。


「まさか高級品とか……」

「全然? あ、クリスマスプレゼントは別に用意してあげるね」

「いらないし!!……待って、え、これ」


慌てて紙袋から取り出す。


「……制服?」

「うん」


もう用意できたの?

というか本気で用意するつもりだったの?


「いらないよ。自分でなんとかするし」

「でも、代金もう受け取ったよ?」


そういって唇にそっと人差し指で触れてくる。


「……っ、あのねぇ」

「まだ怒ってる? 許してくれない?」

「もう……いいよ」

「それじゃあ今度は両想いになってから気持ちのこもったキスをしようね」

「やっぱり反省してないでしょ……!?」


それから、雅人の家を出て


レオの家の車で送ってもらった。


別れ際にレオから『制服のサイズがピッタリだったら運命だから結婚しようね』って言われたのだが。


自室でレオから受け取った制服を着てみるとなんとジャストサイズ。


どこのシンデレラだよ……。

ウエストとかのサイズ把握されてるのキモいな?


ほんと……へんな、ヤツ。


「……っ」


キッチンで洗い物をしていると、手から一枚のお皿が滑り落ちた。


お皿の破片を拾おうとして指が切れ、血が流れる。


こんな小さな傷ひとつついただけで痛いのに。


先生、大怪我してたらどうしよう。


愛美は、無事に帰れたかな……。


『可哀想なモトコ』

『モトコばかりカミヤのことが好きなんだね?』 


レオに言われた言葉を思い出すと胸が苦しい。