『誰にも言うなよ?』



「モトコ」

「ん?」

「モトコがボクのモノになるなら、ひと肌脱いであげなくもないよ」

「……え?」

「モトコがボクのお嫁さんになるなら他人じゃなくなるからパパも動くかもよ?」

「そんなバカな」


金持ちが貧乏人を嫁にもらうこと自体おかしいでしょ。


「さっきから、どうでもいい他人の為に一生懸命なモトコが可愛くて仕方ないんだよねぇ」

「はぁ?」

「婚約しちゃお?」


そんなの、めちゃくちゃだ。


「あのねぇ。そんな取り引きみたいな婚約するわけないでしょ」

「ボクといれば怖いものなんてなくなるよ?」


たしかにアンタ以上にヤバそうなものってそういないかもしれないけど。


「……アイツならなんとかしてくれるかも」

「アイツって?」

「別に」


なんでこんなときに、あの男の顔を思い浮かべちゃうかな。


「……もしかして、カミヤ?」



「なっ……」

「わかりやすいね、モトコ」

「…………」

「名前出しただけで、そんなに慌てちゃってさぁ。妬けるなぁ」

「別に慌ててなんか、」

「カミヤのなにがいいの?」

「……なんだろうね」

「わかんないの?」

「なんていうか、ハッキリ言葉で言えないくらい、心を支配されてる感じ」

「……へぇ。モトコ、そんな恥ずかしいこと言う子だったんだ」


アンタいつももっと恥ずかしいこと言ってるだろ!?


「ボクが転校した理由はさぁ。モトコのこと気に入っちゃったのと、もう一つあってね」

「……もうひとう?」

「うん。元暴走族の教師なんている学校楽しそうだなって思ったからなんだよねぇ」


レオ……


【元暴走族の教師】


どうしてそれを知ってるの――!?


「ねぇ。モトコは知ってた? アイツの過去」

「…………」

「知ってたんだ?」

「少しだけ」

「青山くんは?」

「……知らないと思う。わたしがたまたま知っただけで狼谷先生って普段は根暗みたいだし誰も想像つかないよ」

「そうだよね。みんなに知られちゃよくないよね。学校のセンセイにそんな過去があるなんて保護者に知られたら大騒ぎだ」


レオ、なに考えてるの?


「そうだ」

「……?」

「カミヤのことでモトコを揺すればいいんだ」


――はい?


「カミヤのことバラして欲しくなければ、ボクの恋人になってよモトコ」





#11 だけど、違ったんだ。



.*


「わたしが……レオの恋人に?」

「名案でしょ」

「却下」

「だったらチクる。カミヤはクビかもねぇ」

「汚いよ」

「モトコ困るよね? カミヤが学校からいなくなったら」

「別にそんなことは……」

「ほんとに? 寂しくて泣いちゃわない? それとも、センセイじゃなくなるから好都合?」

「なに言ってんのよ」

「だって教師と生徒じゃ、モトコの性格ならなんの発展もさせられないでしょ?」

「発展……!?」

「あれれ。そう考えるとやっぱりボク的にはカミヤは教師でいてもらったほうがいいや」


なに勝手に納得してるのよ。


「オモチャにしたいとか。婚約しようとか。はたまた恋人になってとか。支離滅裂だよ」

「そんなことないよ。モトコがボクのモノになるなら、肩書きはなんでもいいかなって思って」

「よくないよ……」

「欲しいなぁ。キミが」




じっと綺麗な顔で見つめられる。

さっきから運転手さん無反応だけどお宅のお坊ちゃんが暴走してる件についてなにを考えていますか。


「……っ、レオってさ」

「ん?」

「それ。地毛なの?」

「よくわかったね」

「……まつ毛まで、白いから」


瞳も、青い。


「ボク、ロシア人とのハーフなんだよ」

「あっちの血が濃いってこと?」

「ううん。色素薄いのは病気だから」

「え……」

「先天性白皮性」

「……初めて聞いた」

「そう? “アルビノ”って漫画とかアニメじゃよく取り上げられるよ」

「あんまりそういうの、見ないから」


「気持ち悪いくらい白いせいで、小さい頃、男からも女からもバカにされてた。悪魔とか妖怪とか。顔もオンナっぽいからオカマとかも言われたことあったなぁ」

「そんな……酷い、」

「今はモテちゃってるけどね。ほら、ボク、こんなに、美しいからさ」

「…………」

「あれ。モトコ『自分で言うな!』とかツッコミ入れないの?」


レオは、痛みを知らない人間なんかではなかった。


捕まりそうなくらい問題を起こしたり。

人を傷つけることが愛なんて歪んだ考えを持っているのは……。


そんな過去があったからなの?


雅人はそれを知っているのかな。

知っているから、レオのこと、警戒はしても突き放しきれないのかな。


「学校にまともに通ったの、何年ぶりだろう。屋上なんてあんまり長い時間いられないけど。モトコと雅人といると自分もまだ15歳だったんだなぁーって思い出すよ」


「……レオ」

「これからも、しようよ。一緒に。今しかできない、青春っぽいこと」


レオがときどき幼く見えるのは

無理に、大人になろうとしてきたからなのかな。


「レオ!」

「ん?」

「レオは、気持ち悪くなんてないよ」

「……え?」

「そ、そりゃあ盗聴アプリ入れたり。初対面で顔を舐めてこられたときは普通にキモいと思ったけどさ!?」

「はは。思ったんだ?」

「ひょろくてモヤシみたいだ、とも思ったし」

「傷つくなぁ」

「で、でもね。その白さは自慢していいと思う!」

「……はぁ?」

「病気なのに自慢とか言って失礼なのは承知だよ。それでも、綺麗な子だって思った。きっと小学生の頃のレオは、もっともっと天使みたいだったと思う」

「…………」

「同じクラスだったら良かったのにね。アンタのことバカにするやつ、わたしが口で言い負かしてやれたから」

「わぁ。怖そう」


棒読みで全然気持ちがこもっていないレオ。


「力は無いけど口の悪さなら負ける気しないからね、わたし」


今度は鼻で笑われた。


「信じてないね? 腹黒優等生ナメないでよ!?」

「黙ってモトコ」

「……え?」

「それ以上可愛いこと言うと、キスしちゃうよ?」



(えっ……)


「なんてね」

「びっ……ビックリさせないでよ」

「あは。これじゃ、ボクも青山くんと一緒じゃん」


呆れたように笑う、レオ。


「な……にが?」

「物理的にスキだらけのモトコの唇を奪うことくらい容赦ないのに。臆病になってる」


レオ……?


「オモチャになってとか言ってごめんね? 今はただ、キミを可愛がりたい」

「……!」

「ちゃんと好きだよ」


美少年に真正面から好きだと言われて照れないわけがない。


「モトコは天性のたらしだね。青山くんやボクの気持ちに応えられないクセに魅了してくる」

「そんなつもりは……」

「大好き」

「っ、」

「ボクのことだけ見てよ。ボクもキミだけを愛してあげるから」


体温が、上昇しているのがわかる。

とんでもない心拍数だ。


「お前ら、こんなところでなにしてる?」


――!?


突然車の窓があいて、ひょっこり顔を出したのは――。


「狼谷先生!?」


ブラックモードの狼谷先生だった。


つまり、通常のダサダサでなく美しい方。


なにゆえこんな場所に……?