今日は1日うわの空だった……。

授業も全く耳に入って来なくて、教師に何度も怒られた。

それでも懲りずに彗の事ばかり考えていたら、もう放課後。

部活で彗に会えることにドキドキしながら、急ぎ足で校庭に向かう。

流石に部活もうわの空、なんて訳にはいかない。気を引き締めなければ、と自分を一喝し、靴を履く時によくやるように、とんとん、と地面を数回蹴った。

「こんにちは」

「華恋先輩!こんにちは!」

すでにスポーツドリンクやら何やらを準備していた1年生達が元気に挨拶をしてくれる。
それに応えながら、自分もマネージャーとしての仕事を始めた。

(普通の顔してられるかな……)

彗への恋心を自覚してしまってから、スポーツドリンクを渡そうとして零すわ、タオルを渡そうとして転ぶわ、もう散々。

いい加減慣れろとも思うが、勝手に心臓がうるさいのだ。

すると、サッカーボールを蹴りながら校庭に入ってくる人に気がついた。

(……あっ)

ドキリ、と心臓が鳴る。
入ってきたのは、彗。
直視が出来なくて、ばっと視線を外す。

「池高」

「はっはいぃ!?」

そばまで来た彗に突然名前を呼ばれ、変な声が出る。

(……動揺しすぎ……不自然すぎるってば)

「……」

彗が視線だけをぶつけてくる。

「……?」

(えっ、何?何で沈黙……?!)

「ふっ」

「…え?」

突然、彗が笑った。
かあぁっと顔に熱が集まるのを感じる。

「なっなんで笑っ……」

「顔真っ赤」

「!?」

ばっと頬に手を当てる。
顔真っ赤って、顔真っ赤って……
好きな人にじーっと見つめられたら普通赤くなるではないか。

「暑いの?」

どうやら暑くて顔が赤いと思われているらしい。
恋心がバレている訳ではないと分かり、少しほっとした。
ならばそのまま誤魔化そうと、頷いた。

「はい、ちょっと暑いみたいです……」

「それにしたって赤過ぎ。」

くすくすと彗が笑う。
その笑顔に、肩の力が抜け、華恋も笑う。
そしてふと思った。

(先輩が、卒業しちゃう前に想いを伝えられるのかな……)

爽やかな風が校庭に吹いていた。