23時38分。
遺書は書かない。
この世に遺したい言葉も想いもないから。
23時45分。
夜風に揺れて、髪が顔にかかる。
お母さんのお気に入りのローズの香りが鼻腔を擽って、笑えた。
23時52分。
『お母さんは南のためを思って言ってるの!』
『あなたが幸せになれるように言ってあげてるんじゃない!』
お母さんの口癖が鼓膜の奥に蘇る。
23時56分。
ねえ、お母さん。
わたしの幸せって一体なんなんだろう。
ずっと考えてたけど、わたしにはわからないままだったよ。
23時59分。
けどね、わかったこともあるよ。
生きる意味をずっと考えてて、わかったことがある。
意味なんてないってこと。
人は皆生まれながらに死を待つ、待ち人だ。
なにをしても、なにもしなくても抗えない。
そんな運命の中で生かされてる。
生かされながら、着実に死へと向かって歩かされてる。