「痛いに決まってるでしょ。あんたの所為で超痛い。」


あんたが思いっきり引っ張ったから。
そのくせ、受け止めもしてくれなかったから。

お陰で無駄に痛い思いをする羽目になった。
痛いのは好きじゃないのに。
だから極力痛い思いをしないで済むような死に方を選んだっていうのに。


「悪かったよ。」


ぽりぽりと頰を掻きながら言う男はちっとも悪いなんて思ってなさそう。
蔦色の瞳は愉快そうに歪んで、唇は三日月を描いていた。

何も答えずむすっとしてるわたしに、男は嘆息混じりの短い笑いを零しながら屋上の縁へと向かい、段差を跨ぐようにして座る。

向こう側に放り出された足はぶらぶらと宙を漕いでいた。


男はくすんだ夜空を仰ぎ、一度瞬きすると、ゆっくりとその視線をわたしに戻す。


そこで漸く、今夜が満月だっていうことに気づいた。