「つづりさん?」

副社長に名前を呼ばれて、
「あっ…はい、すみません」

私は呟くように返事をすると、髪の毛の先から落ちている雫を拭きとった。

近い…。

近過ぎる…。

恐ろしいくらいのきめ細やかな肌は、触れてしまったら跡がついてしまいそうだ。

ああ、どうしよう…。

副社長に触れているこの指先から、私の心臓の音が伝わってしまったらどうしよう…。

もしこれが副社長に伝わってしまったら、顔をあわせることができないかも知れない…。

そう思っていたら、
「つづりさんは拭かないんですか?」

副社長に声をかけられた。

「えっ…ああ、私ですか…」

一緒に水を浴びたせいで頭の先からずぶ濡れになってしまっているけれど、ハンカチに水を吸える余裕はなかった。