彼女はよく笑う人だった。

そして、不思議なほどに俺と気があった。

初めて顔をあわせたはずなのに、あっと言う間に彼女と親しくなった。

もっと彼女のことが知りたいと思った俺は、
「初めましてなので、お互いのことを話しあいませんか?

桜井さんのことをもっと知りたいですし」
と、言った。

すると彼女は笑って、
「いいですよ、私も副社長のことを知りたいので」
と、返事をくれた。

“副社長”か…。

その呼び方に、俺は不満を感じた。

『カシオペア』の副社長であることは事実だけど、彼女にそう呼ばれるのは寂し過ぎる。

だから、
「あの、まずはその“副社長”って言う呼び方をやめませんか?

ここは会社じゃないですし、あまり呼ばれなれていないので…」

そう言った俺に、彼女は訳がわからないと言う顔をした。