「君は誰?」

私はそれを聞いたときショックだった。

涙も出そうだった……。

だけど、泣いちゃだめだ。

必死に涙が出そうになるのをこらえる私を彼は不思議そうな目で見てきた。

「どうかしましたか?」

彼に尋ねられ、私は精一杯動揺を隠そうと無理やり笑顔を作る。

「大丈夫です。ちょっと目にごみが入っただけです」

自分自身口からさっと出た嘘にびっくりしていた。

「そうですか。」


にっこりとこちらに笑みを投げかけてくれる。あぁやっぱり変わってない。
この優しそうな笑顔に惚れたんだっけ……。

けど、私はすごい複雑な心境だった。
彼は変わってないけど変わってしまった。

「僕に何か用ですか?えぇーっと…」
そうだ。彼にとって私は知らない人で、初対面の人。名前も知らない赤の他人。

「あ、舞です。桂舞」

「僕は鳥羽正人。初めまして」
初めまして……か。やっぱりわかっててもきついよ…。

「ところでどうしたんです?こんなところに女の子一人で」
こんなところというのは病院の個室である。面識のない者が自分の病室に入ってきたのだからその質問は至って普通のものでもあり愚問でもあった。



「ちょっとお話をしにきたんです」
そばにあったいすに腰を下ろし、正人に目を向ける。

「話ですか?本当ですか!?」
話をしにきた…ただそれだけなのに正人の目はキラキラと輝いた。


「誰も話相手がいなくって退屈していたところなんですよー」
そのうれしそうな表情からは発せられた言葉から二つの意味が舞には読み取れた。
ひとつは、純粋にうれしいのともうひとつは誰も見舞いに来ていないということ。


「ちょっと長くなるけどいいですか?ある女の子と男の子の話なんですけど」
「はい!どうぞ」
もう待ちきれんと言わんばかりに舞に話すように言葉を急かす正人。その様子はさながらおもちゃを買ってもらうときの子供みたいだった…