「…ね、寝てましたけど」

「…物を蹴った音がした。俺以外、この家にいるのは夕陽だけだろ?」

「…」

圭吾の言う通りなので、夕陽は黙りこむ。

「…なんか、俺に用事だった?」

圭吾の言葉に、首をふる。

「…仕事の邪魔しちゃダメだと思った?」

それは、最初に思ったけど。

顔を見せなかったのは、違う理由で。

…うわ。圭吾の口から『静』『好きだよ』の言葉が思い出されイヤになって、圭吾にしがみついた。

「…夕陽、どうした?」
「…どうもしない」

「…夕陽?」
「…昨日は、仕事の邪魔はしたくないと思って、部屋に帰りました。それだけです。ごめんなさい」

しがみついたまま、そう言った夕陽は、スッと圭吾から離れた。

「…夕陽、おい」

圭吾の伸ばした手からスルリと抜けて、夕陽はまた部屋に逆戻り。

「…学校の支度があるので」

それだけ言って、バタンとドアを閉めた。

ドアにもたれた夕陽は、ため息をつく。

「…ああもう、私、何やってんだろ」

自己嫌悪に陥る。

…気を取り直して身支度をして、夕陽はキッチンへ。

行こうと思ったのに、ダイニングテーブルの上には既に、朝食が用意されていた。

「…食べよ」
「…」

今朝は、昨日とうってかわって、二人の間はギクシャクした。