私の視線に気づき、彼もこちらを見てふと小さく笑みをつくるまでのほんの二、三秒。私を諭すようないつもの笑顔が、今日は何十倍も何百倍も、今も左横で流れ続けている夜景の流れ星より眩しく綺麗だと思いました。また、こんな時にも優しく笑う彼が憎く残酷だとも思いました。たまらなく泣きたくなり、シートに放り出されている彼の左手を握りました。つぎの瞬間、後悔しました。いつもなら私より少し力強く握り返してくれる温かいぬくもりがない。返答のない左手に、私は言うしかありませんでした。
「好きだよ。」
「うん。好きだよ。」
優しく笑う彼を見て私は独りだと思いました。
「じゃあ、なんで。」
「好きだからだよ、多分。」
ふと視線を外しながら息を吐くように彼が言いました。返事は待っていなかったのに。独り言のつもりで言ったのに。私の独り言を盗まないでほしかった。そんな返事なら聞きたくなかった。そのキザな台詞を笑い飛ばすことができないじゃん。彼より幼く未熟な私でも、その意味がわかるような気がしてしまったからです。
車内に音楽だけが流れて、握り返してはくれない左手を握ったまま、時は過ぎていきました。こんな時だけ時間は私を追い詰めるように、ゆっくりじわじわと進んでいくのです。
「好きだよ。」
「うん。好きだよ。」
優しく笑う彼を見て私は独りだと思いました。
「じゃあ、なんで。」
「好きだからだよ、多分。」
ふと視線を外しながら息を吐くように彼が言いました。返事は待っていなかったのに。独り言のつもりで言ったのに。私の独り言を盗まないでほしかった。そんな返事なら聞きたくなかった。そのキザな台詞を笑い飛ばすことができないじゃん。彼より幼く未熟な私でも、その意味がわかるような気がしてしまったからです。
車内に音楽だけが流れて、握り返してはくれない左手を握ったまま、時は過ぎていきました。こんな時だけ時間は私を追い詰めるように、ゆっくりじわじわと進んでいくのです。