そのままフィーアを胸の前で抱きかかえるとエルンストは歩きだす。


「あの、ご主人様?」

「静かに」


そう言うと、馬から少し離れたところでフィーアをそっと降ろす。


「俺たちが来たから驚いているんだ、静かにしていたらじき現れる」



背の高い草がひざをくすぐり、素足に冷たい土の感触が伝わる。


一体なにが現れるのかしら?不安と期待でフィーアは微動だにしない。


今宵は新月だ。


空に輝く星の光もここまで届かない。

あたりは闇に包まれた音のない世界。

それはまるで深い海の底に二人で沈んでいるかのようだ。