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一方のフィーアはまさかエルンストが宮廷で密かに貴族の娘を抱こうとしていたとは知るよしもなかった。


屋敷の自室で窓にもたれながらぼんやりと外を見ていた。

そうすることが気に入っていた。

夜空の星を眺めながら、ユリの香りに包まれること。

それはフィーアの心を穏やかにしてくれた。


ふと自身の体を抱きしめる。エルンストに抱きしめられたぬくもりがまだ残っている気がしていた。


あれは夢。

あれは幻。


フィーアのほほを熱い涙が濡らす。

愛することがこんなに苦しいなんて。

フィーアは今まで男性に心を奪われたことが無かった。
初めての恋が自分をこんなに苦しめるとは思わなかった。

愛するだけでは満足できないことを知った。
抱きしめられる温かさも、肌が触れあう快感も忘れられない。

どうしたらこの苦しみから救われるの?
いけないと分かっていて彼の手を取ってしまった。

彼への気持ちは奴隷と言う身分を忘れて、次から次へと溢れて来るばかり。
いったい自分はどうしたいのかさえも、分からない。
本心と建前がせめぎ合う感情の中に自分自身が翻弄されていた。


侍女として奴隷としての分をわきまえず、ご主人様を愛そうとしたから。