「わたくし、パウラ・フォン・クラッセンと申します」

にこやかに自己紹介してきた。


「ああ」

非礼とは思ったが、だいぶ酔いが回っていたこともあり、自分が名乗るのも面倒になっていた。

パウラはそんな様子も気にすることなく話しかけてくる。
ファーレンハイトに勝るとも劣らない美男子のエルンストは名乗らずとも、その名はほとんどの宮廷女性に知られていた。


「エルンスト様のお年は確か、24でいらっしゃいましたよね?
わたくしは今年19でございます」


19....フィーアと同じ年ではないか?

酔った頭でそんなことを考える。


いかん、いかん頭を振った。

フィーアなど関係ないのだ。


「俺とはもう何の関係もない侍女のことなど、どうして気にするのだ」

つい独り言を漏らした。

事情がよく分からないパウラは声をたてて笑う。


「侍女がどうされたのですか?」


「我が家の侍女は高潔で美しい」

酔った勢いで口走っていた。



「まあ、おかしなエルンスト様。侍女など下級貴族の娘ではありませんか?その者が高潔ですって?」

パウラは呆れたように笑い声上げる。

「それともお酒をお召しになりすぎて、たわ言を申されたのですか?」

下品なパウラの笑い声はエルンストを不快にさせた。

良家の子女だの貴族の令嬢だの、ほとんどの女が貞淑とは無縁だ。見栄を張りあい男を奪い合う。ファーレンハイトはよくこんな女どもを相手にしているな。

エルンストは不思議でならなかった。