「ご名答。ナオは俺だよ。」


「なんで………」


「この広い世界にはさ!何万人!何億人ってやつが生きていて!一人ずつにストーリーがあるんだよ。
人生は、自分が主人公の試練。

だから、お前には、俺の過去のストーリーをほんの一部だけ見せてあげたってわけ。

お前の人生と比べてみてどうだった?楽しかった?」


「……楽しいわけ…ない…」


「ほらね。
自分の人生に打ちひしがれるのはまだ早い。
人はみんなそれぞれに傷を抱えて生きてるものさ。ずっと平坦な人生を送るより、波乱万丈な人生を生きた方がお話としては面白くない?」


「そんな客観視できたら…、苦悩しないわ。」


「辛い事があるから、その後の楽しみは何千倍にも膨れ上がるんだ。
例えば、毎日美味しいものばかり食べてたら、それが普通になっちゃって、ツマラナイでしょ。」


「だからってさ…!」


「断言しよう!
お前の人生は、これから沢山楽しい事が待ち受けている!
辛い現実に耐えている今、お前は無敵だ!
この先に待ち受けているどんな些細な幸福も見逃さず、他の奴の何倍も幸せを実感できるんだ!
ある意味ラッキーだよ!」


「ちょっとは私にも喋らせなさいよっ!こちとらあんたみたいにポジティブな考え方はできないの!!ハートが弱いの!簡単に、ああ、そうですか、って物事を受け入れられないの!」


「それじゃあ、本を読んでみて。
なんでもいい。漫画でも、小説でも…
読んでいる間だけはお前はそのお話の主人公になれる。
例えば強敵に立ち向かう勇気や、感動を、たくさん疑似体験できる。」


「そんなの…面倒くさい…!…嫌だよ!!」


「文字を読むのが面倒ならば、ドラマや映画だって、なんでもいいんだ。
俺はそうして、生きる力が湧いてきた。」


「でも…、…結局は魂だけの悪魔になってんじゃん。」


「だから天使な!」


「生きるのが辛い…」


「…俺もそうだった。
けど、繋いでもらった命だよ。
俺は兄ちゃんの生きたいって願いを叶えられなかった。救えなかった。

だから、せめて…お前のしょうもない命くらい繋ぎたい。」


「でも、独りぼっちは寂しいよ……。」


「あーそうかい。」


「…そうだよ。私は孤独がなによりも怖い…。」


「そんじゃ、俺がずっとお前の側にいてやるよ。
いつだって話し相手になるからさ。」


「………っ。そんなこと誰かに言われたの…初めてだよ………。」










その後は


一晩中、泣いた。



人生で一番泣いた。





泣いて泣いて泣き疲れて、





悪魔のような天使を抱きしめて



気付いたら




暗黒の夜もすっかり空けていた---。