それから僕たちは他愛のない会話を続けた。
気づいたら何時間も経っていて、それでも喋り足りなくて。
また明日、って、昨日と同じ約束をして電話を切った。
余韻に浸りながらベッドに仰向けに倒れこんで、ぼんやりと天井のシミを見つめる。
気付いたらあんなに心の中を黒く覆っていた感情も、綺麗さっぱり消えていた。
『また明日』
彼女の声が頭の中で反芻する。
メゾソプラノの、明るい色を持った声。
ひなた…ひなた、か。
結局今日は名前を呼ばなかった。いや、呼べなかった。
明日こそは絶対に呼んでみせる。ひなた、って。
心の中で決意して、静かに目を閉じた。
『流星』______彼女の声をもう一度思い出して、ひとりでに微笑んだ。
いい夢が見られそうな、そんな予感がした。