「それじゃ、これ、ありがとうございました。」
これ、と肉じゃがの入ったタッパーを軽く持ち上げる。もう話を続けたくないという思いを込めながら。
「おう。またなんかあったら来るわ。」
そんな僕の思いを知ってか知らずか、そう言って莉央ちゃんの手を取り歩き出す隆さん。
そのまま僕に手を振って隣の部屋に消えていった。
僕も手を振っていたが、二人の姿が見えなくなると同時に手を降ろし、急いでドアを閉めた。
糸がぷつんと切れたように、ズルズルとドアを背にして玄関に座り込む。
「つかれた…」
言葉と一緒に大きなため息がこぼれる。
無理に上げていた口角が引きつったように痛んだ。
隆さんは、苦手だ。あの豪快な笑い声も、笑うと見える白い歯も、えくぼも。
母が死に、父も死んで、一人になってから三年。隣人の隆さんは色々と僕のことを気にかけてくれていた。
15歳で天涯孤独になった哀れな少年を可哀想に思ったのかもしれない。
でも僕は、一人でだって生きていける。
お情けで気をつかわないでほしい。その程度の関係、僕には必要ない。
僕だけの部屋で、ひとりぼっちで、ひたすら本の世界に浸っているのが、僕には一番心地が良い。