「あー…それで、流星。なんか困ってることとかないか?」

「困ってること…ですか?」

「ああ。ほんと、なんでもいいんだ。夏休みの課題が終わりそうにないとか、好きな子と上手く話せない、とか。」


好きな子、と言いながらウインクをかましてくる陸さん。

はあ、と気の無い声が唇から漏れる。

莉央ちゃんが「流星お兄ちゃん好きな子いるのー?」と、きらきらした瞳で見上げてきた。


そんな彼女の頭を撫でながら、隆さんに微笑む。


「今のところは、特にこれといったことはないですよ。課題も順調に進めてるし、好きな子なんていないし。」


隆さんは、なら良いんだ、とつまらなそうに言う。僕は反応に困って、とりあえずまた、微笑みを浮かべた。


「莉央もほら、なんか言いたいことあるんじゃなかったっけ?」


一瞬できた間を繋ぐように、隆さんが莉央ちゃんに声をかける。

莉央ちゃんは大きく頷くと、まん丸の目をにっこりと細めた。


「あのね、お兄ちゃんに借りた本、すっごい面白い!もう読み終わるから、そしたらまた新しい本貸してほしいの!」

「もちろんいいよ。どんな本が良いとかある?」

「んー、お兄ちゃんが好きな本!」

「わかった、選りすぐりのすごーいやつを貸してあげる。」


今何を貸してたっけな、と思い出しながら、莉央ちゃんの頭の上に置いたままだった右手を離した。