「もう大丈夫。取り乱してごめんね?」
「んーん!辛い時は泣いていいんだよ!」
涙をふいて顔を上げたとき
そこにいたのは総くんだった
「少し、話しできるか?」
総くんの目は真剣そのものだった
「…うん。」
裏庭へ向かう私達
そこへつくまで
長い沈黙が続いた
裏庭へつくと総くんが口を開いた
「本当は口止めされてて、いうか言わないか迷った。」
よくわからずに頭にハテナを浮かべる私
それでも総くんは話をすすめた
「だけど、杏梨ちゃんは知っとかなきゃダメだって気づいたから。だからちゃんと聞いてほしい。聞いてくれるよね?」
聞かなきゃいけない
私には向き合わなきゃいけない問題がある
それが伝わってきて頷いた
「涼のことだ。涼は今、入院している。」
「涼が、入院…?」
「あぁ。癌だ。」
「は?待って、冗談?」
「こんな冗談言わないよ。…ちゃんと受け入れてくれ。…涼はもう長くない。全身に癌が転移してて、手術をしても治らないらしい。」
「でも涼、一週間前に私と話したんだよ?学校に来て、それで一緒に…」
「その時に別れを告げられたはずだ。涼はその時すでに入院していて、でも杏梨に病院から抜け出して会いに行ったんだ。」
「なんで…?」
「分からないか?ちゃんと会って、自分の口で別れを告げるため。メールや電話なんかじゃなくて、自分の口で。」
「でも、幸せにしたい奴ができたって…」
「それがお前じゃないと何故言い切れる?」
「でも…!」
「逃げるな!辛いと思う。俺だって辛いから。お前はもっと辛いと思う。だけど…お前だけはこの現実から、涼から逃げちゃだめだ!」
「っ…」
「涼は癌のせいで全身が死ぬほど痛いはずなんだ。だけど病院を抜け出してまで涼はお前に会いに行った。…約2週間前に病気がわかった。あいつは後悔してた」
「後悔…?」
「あいつに好きだよなんて、言わなければよかったって。死んじまう相手にそんなこと言われたら辛い思いするに決まってるのになって。」
視界が滲むのを感じる
瞬きをすれば涙が止まらなくなる
そう思った
必死にこらえても止まるはずないのに
「俺聞いたんだ。なんで別れるなんてゆったんだよって。そしたらあいつ、"お前が俺でもきっとそうするだろ?あいつには幸せになってほしいんだ?杏梨は俺が初めて心から愛した女だから。…付き合ったまんまでさ、もうすぐ死ぬ彼氏がいるってゆうの重いだろ?負担になったらいやじゃん!"笑ってそう言ったんだ」
ねぇ涼、今あなたは何を思ってるの?
「俺はあいつがすげぇと思うよ。…なぁ、行ってやってくれ。お前も涼のこと今でも好きなんだろ?それとも長くないってわかってそのまま見捨てるか?逃げるか?重いって思うか?」
「そんなわけない!そんなこと、あるわけないじゃん!私だって涼が初めて本気で好きになれた人だもん!!心から愛した男だよ!重いなんて思わない、私は涼が好き!なにがあっても」
「なら、涼にそれを言ってやれ。そんで一発くらい殴ってやれよ。馬鹿野郎ってな!…お前が涼の彼女でよかったよ。これ、涼の病院の場所。」
差し出されたメモを受け取り
お礼を言い
私は全速力で涼の病院へと駆け出した