もしも……願いが叶うなら……
どんなに想っても……
あなたは応えてくれない
あなたは俺なんて見てない
そんなのわかってるよ
それでもあなたに会いたい
_________________________________________
美緒は知らない。俺には秘密がある。
母さんが美緒だけを連れて家を出た。俺も一緒に行きたかった。だけど、わかってる。俺とは血のつながりも何もないんだから……
俺の本当の母親は……毎夜ホスト通いして、遊びまくって父と俺が2才の時に離婚したと聞いていた。覚えてることなんて、ひとつもなかった。そして、美緒の母親はバツイチっていっても、美緒が生まれてすぐに父親が交通事故で亡くなった。そのあとはおばあちゃんと3人で暮らしながら、うちの会社で働いていた。その後、再婚した。仕事で忙しい父との暮らしだった家が、笑顔に包まれた幸せな家庭になった。あの頃は、本当に幸せだった。
2人が出て行ってから、また2人の生活。寂しくて……寂しくて……心に穴が開いた。たまに2人と会えることだけが、幸せを感じられた。
俺が女嫌いっていうのは、事実だけど、本当は違う。好きな人がいないわけじゃないんだ。自分の気持ちに気づいたのは、美緒に彼が出来たと知った時……そんな話は聞きたくない。嫉妬に狂う自分に驚いた。そして、彼と別れたと聞いて、なぐさめながらも、心の中では喜んでた。
おばあちゃんも亡くなり、1人になった美緒がうちにきてくれた。一緒にいると、嬉しいことが増えていった。毎日が幸せだった。
そんな幸せを壊したあの男が許せなかった。別れてすぐに他の女と付き合ってるこもを知り、すぐに美緒に連絡した。傷ついた美緒に言うべきじゃないのに……
俺は待つだけだった。ひたすら待っていた。美緒からの電話を……だけど、全然連絡なんてこない。まるで、俺なんて必要ないって言われてるみたいだ。
俺の気持ちなんて、何もしらないで……
これで最後でもいいから、もう一度だけ会いたい……よ
だから、前に教えてもらった美緒の部屋を訪ねた。また会えると思っただけで、ドキドキする。
出てきた美緒は、泣き腫らして……まだ、あの男のことを忘れられないのかと、心の中では嫉妬に狂いそうだった。ても、美緒の言葉は意外なもので……それならうちにこい……って、言った。
翌朝、本当に美緒がきた。もう離さないから……
抱き寄せた美緒のぬくもりにホッとした。本当に美緒がいる……夢じゃないんだ……俺の幸せは、美緒が一緒にいてくれること。これがかけがえのない幸せなんだ。
俺の心の中に、優しく差し込む光……
何もかもうまくいかない
この先もこんなことが続くのかと
うんざりしていた
もう……どうでもよかった
でもどうしてだろう?
私は泣いていた
涙は次から次へと流れる
涙はぽたりと落ちた
未来を思ってあふれ出した感情
_________________________________________うまくいかないことばかり……どこか、諦めていた。全てどうでもよかった。
でも、涙があふれて止まらず……
ここで諦めたら、私の未来は……
こんなところで諦めてなんていられない。私の未来は私が切り開く。
やっと見つかった仕事。受かるなんて思っていなかったんだ。よく喫茶店にきていたおじいさんが、この会社の会長だと知った。あの出会いが、ここにつながっていたんだ。今までのこと、無駄なことばかりじゃなかったんだね……
いつもと変わらない毎日
なにひとつ変わらない
いつのまにか……
あんなに痛かった胸の苦しみもなくなっていた
切なさで押しつぶされそうな感情もなくなっていた
想い出もいつのまにかセピア色に変わっていた
本当に恋が終わった瞬間……
幸せになるって難しい……ね
だから「幸せになりたい」って思うのかな?
どうやったら私は幸せになれるの?
_________________________________________
会社と家の往復だけの毎日……代わり映えのない毎日……
だけど、忙しく仕事をしていると、色んなことを考えずにすんだ。
そんな中でも、まだ彼のことを思い出すことがある。あの頃の私は……誰かに寄りかかり、寂しさを埋めたいと思っていた。彼の優しさに安心していた。彼の優しさに甘えて、見たくない現実から逃げていただけだったのかもしれない。
客観的に昔の自分を考えていて、彼との想い出がセピア色に変わっていたことに気づいた。彼との恋が本当に終わった瞬間……
少しは強くなれたのかな?
だけど、幸せにはなれない。どうやったら幸せになれるんだろう……全然幸せになれる気がしない……幸せな人って、どうやって幸せになったんだろう……
1人で、家でご飯を作って食べて……でも、1人で食べるご飯はおいしくない……の……今までと同じ味のはずなのに……
つまらない毎日……に
あなたが明るい光を差し込んでくれた
あなたといるだけで幸せを感じた
またあなたといられる……の?
もう泣かなくてもいい……の?
胸が張り裂けそうな想いをしなくてもいい……の?
私……幸せだなって思った
この一瞬で幸せを感じた
_________________________________________
金曜日の夜……
今日も、ひとりぼっちのご飯……おいしくない。寂しさを感じる。涙があふれて止まらない
そこへ、兄がやってきた。出ないわけにもいかない。涙を拭いて、出たけど……泣いてたの……わかるよね……
「美緒……何があったんだ?」
「なんでもないの……」
「泣いてるのに、何もないわけないだろ……」
泣いたわけなんて……言えない……言えない……よ
「本当になんでもないの……」
「なんで言わない?俺じゃ頼りないってことなのか?もしかして、まだあの男のことを忘れられないとか?」
「そんなんじゃない……」
「だったら、言えよ……」
「あのね……彼のことはもう思い出深もセピア色になったし、思い出すこともほとんどないの。でもね…_1人でご飯たべてもおいしくいの……それで寂しくて……」って話したら、涙がこぼれ落ちる
「それなら、うちに戻ってくればいいだろ……」
「でも、もう迷惑かけたくない……」
「迷惑なんて思ったことないから……戻ってこい」
「本当に迷惑じゃない?」
「俺が美緒といたいんだ。もう離さないから……」
私の頬を流れる涙を拭い、ギュッと抱き寄せた。
荷物もほとんどないので、朝……兄の家に行った
太陽の光が窓から差し込んできて、部屋を照らす。光は温かくて……たまらなくホッとした。窓から見上げた空に輝く太陽。あなたが寂しい私の心の太陽……だよ。
「また一緒に暮らせるなんて、夢みたい」
「夢じゃないよ。これからは、ずっと一緒だよ。」
オレ……
別にどうにかなりたいって考えてるわけじゃない
オレの勝手な片想いだから
想うだけは見逃して……
本当に何もない……
悲しいくらい何もない……
何もあるわけない……
_________________________________________
美緒とご飯を食べていた。美緒が俺に向かって微笑んだ
最初は、一緒にいられるだけでよかった。でも、だんだん足りなくなって……どんどん欲張りになって……もっと俺のことを意識してほしい……もっと俺のことを考えてほしいって……
多分、生まれ変わっても、お前が好き……生まれ変わったら、何も関係なく恋できるのかな……
何考えてるんだろう………俺………美緒に気づかれないような小さなため息をついた。そんなことすら考えてしまうくらいお前を好きなのに……
ようやく前へ進めた
だからもう過去は振り返らない
自分の足で踏み出さなきゃ
私は未来への一歩を踏み出す
もう立ち止まらない
今……未来への扉が少しだけ開けた気がする
_________________________________________
彼の存在を……想い出を封印するように、心の中から消し去った。
それなのに、なんでまた出会ってしまうんだろう……
あれから、1年以上たってるのに、あなたはあの頃とかわらない。
たまたま出かけたショッピングモール……で、声をかけられた。
「久しぶり……」
もう関係ないのに、声をかけられたくなかったのに……
「お久しぶりです」
「あれから……忘れようと思った。だけど、忘れられなかった。」
「私は忘れたかった。何もかも……だから、全部封印したの……」
「でも、また会えた。やっぱり……」
「先輩と付き合ってたんでしょ?」
「ごめん……美緒ちゃんとは、もうダメなんだなと思って、告白されてつきあった……ても、俺はやっぱり美緒ちゃんが好きだから……終わりにしたくない。もう一度付き合って、俺の隣にいてほしい。」
「もうやめて……ダメ……ダメだよ。他の人とつきあって、やっぱり好きって言われても、やっぱり無理。あれから、私達は別々の道を歩いているのよ。もう、あの頃には戻れないし、戻りたいとも思わない。もう見かけても、声をかけないでください。さよなら……」
「美緒ちゃんが好きなんだ」
その言葉を振り切るように、彼の前を立ち去る。未来への一歩を踏み出せた気がする。
今まで諦めてきたことがある
色んな理由をつけて……
でも全部言い訳だった……んだよな
彼女がすごく努力してる姿を見て気づいた
オレって努力した?
どんな困難も乗り越えていく彼女
すごいと思った
彼女はオレの憧れっていうか……
_________________________________________
数年前、オーディションに落ちまくり、諦めようとしていた。
たまたま入った喫茶店。
ウエイトレスに声をかけられた。
「夢に向かって頑張ってるのって、素敵です。頑張ってくださいね。」
頑張ってるのに、成果がでなくて、イライラしていた俺は……
「何も知らないくせに、お前に何がわかるんだ……」
って、言ってしまった。
「余計なことでした。気を悪くさせてしまって、すみませんでした。」
そのまま店を出て、家に帰った。だけど、八つ当たりしてしまったことを反省した。
翌日彼女に謝ろうと、喫茶店を訪れ、彼女が店を辞めてしまったことを聞いた。なんか……後味が悪い……辞めた理由は……?
何度か喫茶店を訪れ、色んなことがわかった。父親は、子供の頃に離婚していて、母親と祖母と3人で暮らしていたこと。中学の時に母親を交通事故で亡くしたこと。ピアニストになる夢を諦めて、今は祖母と暮らしながら高校に通ってること。朝新聞配達、放課後は喫茶店でバイトしてること。だけど、いつも笑顔で……
そんな彼女に、俺はあんなことを……言ってしまった。謝りたくても、彼女はどこにもいない……
俺は彼女ほど努力してない。言い訳して、諦めようとしていた。自分の意思とは関係なく、諦めなきゃいけない人もいるのに……
心の声が聞こえた気がする。いつまで逃げたら気が済むんだ?もう逃げるのは、やめるから……
あれからがむしやらに頑張って……夢を追いかけた。やっと、バンドでデビューが決まった。これも、全部あの時の彼女のおかげ……
もう過去には戻れない
この世界で生きるしかない
何もかも遅かった……のかな?
我慢しすぎた……のかな?
オレは……どうして……
_________________________________________
あの日、美緒に拒絶されて、俺はどうしていいかわからなかった。美緒と会う機会をなくし、耐えきれず……俺はあの頃から……ずっと……ね……事実から目を背けていた
美緒まで失うんじゃないかと思うと、恐ろしいんだ。怖くてたまらないんだ。
美緒がいなくなってから、俺はどうやって生きていけばいいかわからなくなった。
会いたいのに、会えなくて……心が冷え切っていく。まるで氷のように……あの時、なんで自分だけが生き残ってしまったんだろう……彼女が救ってくれた命なのに……
眠れぬ日々……彼女の所に行きたい………処方されていた睡眠薬をいっぱい飲んで眠った。
ここは……どこ?病院だった……彼女のところにいけなかったんだ……
ぼーっとする頭……聞こえてきた足音……ドアが開く音……
「な……なんでこんなこと……」
彼女はいなかったけど、美緒がいた……
「彼女のところにいきたかった……」
「行けるわけないでしょ……もうこんなことしないで…」
「もう俺には何もない……」
「そんなこと言ったら、ママが悲しむ……よ」
「そんなことわかってる。でも……もう無理なんだ……」
「私は何をしたらいい?」
全部ぶち壊すってわかってても……
「じゃぁ、ずっと一緒にいてくれ……よ。美緒が俺をどう思っていても、俺の気持ちは変わらない。美緒が誰よりも、何よりも大切なんだ。俺を離さないで……くれ」
俺は俺なりに、美緒を大切に思っていたんだ。美緒がいてくれるだけで大丈夫だって思える。
「ずっと一緒にいるよ……」
「本当?」
「うん……」
その言葉を聞いて、また眠った。
目を覚ました時、美緒がいた。夢じゃなかったんだ。
あの日のように、お前を手放しはしない。二度と離したくない。お前を離すつもりはない。絶対に離さない。
今の関係を維持してきたのに……
あなたはずっと一人で
こんな苦しみを抱えていた……の?
あなたにとって
私ってどんな存在なんだろう……
いつか別れがくるとわかっていても
今は一緒にいたい……いてあげたい……
_________________________________________
久しぶりに見た。あの時よりもだいぶ痩せていた。
あの時、離れたのはこんな風になってほしかったからじゃない。幸せになってほしかったから……
いつか別れがくるかもしれない。でも、離れるべきじゃなかったんだ……ね。
眠ってから、部屋に行った。ゴミだらけで……どんな生活をしていたのかがわかるような惨状だった。部屋を綺麗にして、病院に戻る。
まだ眠っていた。私はあなたのこと何も知らなかった。あなたの心が癒えるまで、一緒にいるよ……