「お母さんの形見の宝石というのは?」

「ルビーのペンダントです」

「ルビーのペンダント?」

「妻が大事にしていたルビーのペンダントに、娘と妻が写っている写真が入っているんです」

「なるほど……」
 
おそらく彼女は母親の顔をあまり覚えていないだろう。
 
だが、その母親の写真を見る事で昔の出来事がフラッシュバックしないか心配だ。そのせいで心を奥深くに閉ざしてしまう可能性だってある。

「それで盗んだのは?」

「この街で女神の涙(エリラーイエンレイ)と言う、宝石店を営んでいるオーナーのレギオと言う男です」

「女神の涙か……」

まるで星の涙のような名前だな。

「そのレギオと言う男から、マナティの母親の形見であるペンダントを盗み出せば良いんですね?」

「はい! 娘の為にもどうかお願いします!」
 
ローレンスは深々と頭を下げる。その姿を見た俺は言う。

「分かりました。必ず盗んでみせます」
 
そう言って立ち上がり部屋の扉へと向かいドアノブに手を掛ける。

「安心してお待ち下さい。出迎えてくれた彼女に玄関まで遅らせますので、少しお待ち下さい」

「は、はい」
 
部屋を出た俺は息を整えるように大きく深呼吸する。扉から離れ廊下の角を曲がったところで立ち止まり。

「はああああ……疲れたぁ!」
 
やっぱり気を張って話すのは大変だし疲れが出る。

依頼が来る度にこんな話し方をやっているんだ。いつかストレスになって倒れるだろうな。