案の定、幼馴染は私が彼女の家についても
まだ、支度の途中だった。
私は彼女の母親と世間話をしながら
彼女、樋口 月(ひぐち つき)を待っていた。
つきは、それから5分くらいしてやっと
家の外に出てきた。
「ゆさ、ごめーん。待った?」
どこぞやのカレカノ風に言う
憎いくらいに可愛い幼馴染に皮肉をいう。
「待ってないと思った?」
つきはへへへっと可愛いらしく微笑んで
自転車にまたがった。
「それじゃあ。ゆさ、出発進行~‼」
テンションがいつもより高いつきに
呆れながらも私は微笑み返した。
私達は普段は通らない小道か、
普段通りの大きい道路のどちらから
図書館に行くのかを迷った。
今日はつきが遅刻した(いつもそうだが…)
ということで、何様だよと思いながらも
つきは私に選択権を与えてくれた。
私は車が自分の横を通るのが嫌いだったので、
普段はあまり通らない小道を選択した。
「小道にするの⁉
つきはね、意外にここを通ることが多いよ。」
「へーそうなんだ。ってかつき、
最近誰と帰っているの?」
そこから世間話が始まった。
つきとの会話はいつものように弾んで、
図書館まであと少しというところだった。
ブーン~~
後ろからバイクのエンジン音が聞こえた。
私達は道の端によけると、バイクは私達のすぐ
隣を爽快に走っていった。
そして、バイクは十字路の左側を曲がり、
なぜか、フルフェイスのヘルメットを
かぶった人はバイクから降りた。
その周りには畑がたくさんあったから、
農家さんかな?と思って挨拶をしようとした。
今思えば、農家さんがバイクを乗り回し、
フルフェイスのヘルメットで収穫をするなんて
おかしいと思うが、
この当時は少し違和感を抱いただけだった。
私が″こんにちは″のこの字に口を開けて、
フルフェイスの顔を見ながら挨拶をしようとすると、
フルフェイスは私のリュックに左手を伸ばした。
私は驚いて何も考えずに今まで出したことのない
位の大声で「キャー」と叫んだ。
私の右側にいたつきは声も出せずに驚いていた。
私はフルフェイスの左手に何か光り輝くような
ものが見えた気がした。
私は自分の身を守ろうと必死で叫んだが、
身体は固まっていた。
私が叫ぶとフルフェイスは怖じ気づいたのか、
バイクをその場に置いて、
私達が行こうとしていた道へ走っていった。
私は
「つきっっ!!」
と声をかけて自転車の進行方向を変え、
思い切り自転車をこぎ始めた。
私達は必死で「助けて」と叫びながら
元の道をたどった。
平日のお昼時、誰も人はおらず、
私達は恐怖の逃走劇をした。
つきは私をなんとか追ってきた。
そして、つきの家に駆け込んだ。
つきは玄関に案内してくれて、
二人で怯えていた。