それから時は過ぎ、あの日から6年が過ぎた。
日常は変わることなく、今日も自由気ままに回り始める。
朝ベッドから起き上がり。
歯磨きをして朝ごはんを食べて。
それぞれの目的地へと足を進める。
昼ごはんが終われば、午後の活動があり。
夕方になると、それぞれが家へと足を進める。
そんな変わらないストーリーの裏側に、かつては残酷な裏ストーリーが流れていたものだが、今ではそんなバグはなくなった。
その6年の間に、人はどれほど変わるのだろうか。
どれほどの人と出会い、どれほどの感情を共有していくのか。
少なくとも、前の物語の主人公"だった"彼女は、言葉には出来ないほどのものを手に入れた。
「どこの国も魅力的だったけれど、やっぱり日本が一番落ち着く。」
靡いた髪を片手でそっと押さえる。
視線の先には、キラキラとネオンが輝く街。
あの時はこの夜の街が嫌いだったけれど、今はなぜか……とても綺麗に見える。
「……遅くなってごめん。
まだ前日だけれど、あの日からもう6年経ったんだね……。」
鮮やかな月が彩る冬の日の前日、あるお墓の前に佇み手を合わせる人物。
お墓参りに訪れる人々は、大抵あまり良い顔をしないものだが、この人物だけは……微笑んでいた。
どんなことを語りかけたのかを悟る前に、その人物は立ち上がった。
「……ずっと臆病で一歩踏み出せなかったけれど……、________。」
最後の言葉は、夜風に乗って聞き取れなかった。
そして、去っていったその人物の後ろに、あとを付いていく黒い猫の面影が見えた気がした。
月夜に照らされた……たった一瞬の幻……だったのかもしれない。